第88話「作戦発動 — 沖縄戦開始」
昭和20年(1945年)4月1日 午後・沖縄周辺海域 米第五艦隊旗艦バタゴニア
沖縄本島が水平線の彼方に黒く浮かび上がっていた。
米第五艦隊旗艦「バタゴニア」の作戦司令室では、最後の命令が下されようとしていた。
幕僚が整然と報告を行っていた。
「サイパン第21爆撃集団、九州広域爆撃成功と報告」
「第58任務部隊、九州南部空襲任務も完了。迎撃反応は極めて限定的。敵航空戦力消耗と認定」
レイモンド・スプルーアンス大将は静かに頷いた。
「──よし。条件は整った。」
参謀長が作戦盤の上で指を走らせた。
「上陸正面、第6海兵師団、第7歩兵師団、第96師団、予定通り上陸開始位置へ移動中」
スプルーアンスは沈着に命じた。
「全艦隊、作戦発動。主砲射撃開始、ロケット兵器全弾装填」
午後1300時・沖縄本島沿岸
静まり返っていた海面が突然、轟音に包まれた。
戦艦「アイダホ」「ネバダ」「ニューメキシコ」──主砲が次々に火を吹き、艦砲射撃が始まった。
ドォン──!
ドォン──!
20キロ彼方の海岸線に向け、徹甲弾が次々と飛翔していく。
白い水柱と爆煙が浜辺と丘陵地帯に巻き上がったかに見える。
続いて無数のロケット砲が一斉に噴射を始めた。
ブオォォォォ──ン!!
ヴォシュシュシュ──!!
LST艦艇の甲板から発射される**ロケット兵器LCT(R)**群。
沖縄本島の海岸線を埋め尽くすように着弾し、砂煙が天を覆った。
沿岸丘陵地帯には既に艦砲弾煙で覆いつくされ、一帯が破壊しつくされたかのように感じる。
艦隊司令室内、幕僚が短く報告した。
「砲撃精度安定。ロケット投射完了。着弾密度良好」
スプルーアンス大将は短く命じた。
「よし、上陸開始。」
海兵師団の揚陸艇群が一斉に前進を開始した。
青灰色の波間に、白波を切って無数のLCVP揚陸艇が列を成して進む。
海面はなおも艦砲の轟音に震え続けていた。
こうして──
沖縄戦の火蓋は、今、切って落とされた。




