第86話「海軍の攻撃 —」
昭和20年(1945年)4月1日 朝・南九州沖 米機動部隊
太平洋上を進む米第58任務部隊。
通信士が朗報を届けた。
「第21爆撃集団より戦果報告到着!──宮崎滑走路上に爆煙、炎上機体確認。爆弾作動良好」
ミッチャー中将は無言で頷いた。
「──よし。空軍は仕事を終えたらしい。次は我々の出番だ」
すぐさま命令が発せられた。
「全艦、攻撃隊発艦用意!」
午前0800時・発艦
甲板上の艦載機群が次々とカタパルト射出されていく。
F6Fヘルキャット、SB2Cヘルダイバー、TBFアヴェンジャー──総計120機余の大編隊が九州へ向かった。
宮崎飛行場上空
梶山少将は司令所屋上で双眼鏡を構えた。
今度は低空に現れた艦載機群を睨み上げる。
「海軍機……いよいよ本格的な戦闘行動だな…」
司令部は緊張に包まれる。
応急整備班が必死の報告を上げてくる。
「滑走路復旧、未完了! 迎撃不可能!」
滑走路は依然として綿あめに埋もれ、発進不能状態が続いていた。
低空投弾開始
F6F編隊は高度200〜300mで接近し、TBF爆撃機が次々に爆弾を投下していく。
だが日本側から見えたのは、異様な光景だった。
「爆弾が……転がっている!?」
投下された爆弾は、空中で爆発せず、着地と同時にバウンドし、そのまま滑走路を回転しながら突進していく。
まるで巨大な鉄球が転がるように、滑走路上を横切っていった。
「避けろッ!」
整備兵たちが駆け込んで退避する中、転がった爆弾のいくつかが誘導路端の駐機中の戦闘機群に突入。
一式戦・零戦が弾き飛ばされ、格納庫前で爆発ではなく押し潰されるように破壊されていく。
結果的に複数の傷ついた機体が火炎に包まれた。
「なんだこれは……!?」
副官が叫ぶが、梶山少将は冷静に見続けた。
(なぜ爆発させないんだ!?)
艦隊通信室
上空の偵察機から打電が届く。
「──滑走路上、敵航空機複数炎上。火煙多数。迎撃反応なし」
ミッチャー中将は満足げに頷いた。
「命中良好。我々は順調だ」
参謀が低く付け加える。
「敵航空戦力は既に消耗著しき状態と推測されます」
ミッチャーは短く応じた。
「ならば──次も同様に叩く」
だが、転がりながら滑走路を這う異様な爆弾群の挙動など、艦上の誰も知る由はなかった。




