表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
新たなる局面
82/133

第84話「九州空襲 — 」

昭和20年(1945年)3月30日 日本・宮崎飛行場


防空警報がけたたましく鳴り響く。

司令所の梶山少将は双眼鏡を構え、接近する銀色の編隊を静かに凝視していた。


「敵機、B-29編隊──推定50機以上。正面突破だ」


通信将校が叫ぶ。


「全高射砲、射撃開始!」


ズドン、ズドンと重い発射音が滑走路脇で鳴り響き、曳光弾が薄紅の線を描いて上空へ伸びていく。

爆煙が次々と空に咲き乱れた。


上空・迎撃戦闘空域


五式戦、隼、零戦──各機が必死に高度を稼ぎ、雲間を縫って上昇していく。

機銃を握る若き搭乗員たちは、遥か上空に蠢く銀色の編隊を睨み続けていた。


「まだ届かんのか……!」


「あと二百! 二百米上がれば撃てる!」


呼吸を乱しながら、酸素マスク越しに叫ぶ若い少尉。

エンジンが悲鳴を上げながらも唸り続ける。


ようやく照準距離に入ると、次々と機銃が火を噴いた。


「撃てえぇッ!!」


曳光弾が弧を描き、B-29の翼端付近を掠めていく。

だが防御銃座からも猛烈な反撃が降り注いだ。


交錯する弾幕の中で、ついに一機のB-29が炎を噴いた。

高射砲の弾と戦闘機の一撃が重なった瞬間だった。


「落ちた! 一機撃墜!」


高射砲観測所からも歓声が上がった。

だが、編隊の大部分はなお規律正しく投弾コースを維持していた。



滑走路上 — 発進準備中


その頃、滑走路では次の迎撃隊が発進準備に追われていた。


整備兵たちが最後の確認を終え、搭乗員がコクピットに収まる。


「始動!」


プロペラが唸りを上げ、エンジンが回転を始めた。

だがその直後──異変が起こった。

上空での爆発音とともに、あたり一面がピンク色の靄に包まれる。

ゆっくり降りてくる淡いピンク色の靄が滑走路上に降り始め、綿状の細かな粒子がゆっくりと吸気口へ流れ込んでいく。


「空気流入──詰まりだ!」


整備兵が叫ぶが、時すでに遅かった。


高回転圧縮中のシリンダー内で綿状物質が膨張・燃焼。

機内で小規模な爆発が起き、エンジン前部から火柱が噴き出した。


「火災! エンジン切れ!」


消火班が駆け込むが、甘味繊維が絡みつくせいで火が広がっていく。

格納庫へは延焼を防いだものの、発進予定だった戦闘機2機が焼失した。


司令所上階で双眼鏡を構えていた梶山少将は、無言で光景を見つめた。




投弾完了直後


投下された巨大爆弾は、地表に落下して淡く重低音の爆発音を発した。

一瞬の静寂の後、またしてもピンク色の靄が立ち昇り、甘い香りが滑走路全体に拡散していった。


見る間に滑走路は綿菓子のような厚い層で覆われ、発着不可能な状態に沈んでいく。



司令所・会議卓


幕僚たちが集まり、梶山少将の前で戦況報告を行っていた。


「被撃墜1機確認。高射・戦闘機とも戦闘による被害なし。ただし……発進準備中の2機が綿状物質吸入によりエンジン爆発、全損」


「滑走路使用不可。応急除去班を出しておりますが……」


甘味の残滓が漂う外を一瞥しながら、梶山少将はゆっくりと口を開いた。


「……これほどの質量をばら撒かれると、綿菓子といえども戦闘機を破壊し得るわけか」


副官が低く頷く。


「ですが──それでも敵は、依然として本格爆撃はしてきません」


梶山は黙って天井を仰いだ。

ピンク色の靄である綿菓子が、春霞のように残光に漂っていた。


「……連中の意図は、ますます不可解になるばかりだな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ