第81話「我々の戦争だ」
昭和20年(1945年)3月25日 グアム島 米太平洋戦域統合司令部
分厚い防音扉の内側で、作戦会議は淡々と進行していた。
地図上には、沖縄本島、読谷、嘉手納、那覇、そして上陸予定の浜辺が赤線で描かれている。
報告を続けるのは、作戦幕僚長のサザーランド少将だった。
「上陸部隊は全戦力集結を完了。輸送船団・揚陸艦・護衛艦群とも航路安全を確保済み。陸軍・海兵隊、総計18万名が即応体制にございます」
「第五艦隊の艦砲支援部隊は?」
「硫黄島方面から順次南方移動開始。スプルーアンス提督より、予定通り支援射撃可能との報です」
サザーランドが次の資料を捲った。
「空軍に関して──第21爆撃集団、ルメイ将軍以下、サイパン基地にて連日の訓練を継続中。先週以降は特に集中投弾訓練を強化しております」
マッカーサーはその言葉にわずかに口元を歪めた。
静かに葉巻に火をつけ、煙を吹き上げる。
「──訓練、か」
「は。爆撃手技術の再錬成という名目にございます」
その瞬間、マッカーサーは鼻で笑った。
「ふむ。まるで敵の頭上ではなく、我々陸軍の頭上に爆弾を落とす訓練に励んでおるのではないのか?」
皮肉は淡々としていた。
参謀たちは苦笑を堪えるように静まり返る。
「……彼らの爆撃訓練の炸裂音は、毎晩ここグアムまで届いてくる。陸軍の幕僚たちは一体どれだけ自分の天幕を吹き飛ばされるかと肝を冷やしておるわ」
サザーランドがわずかに口元を動かしたが、言葉にはせず、静かに敬礼した。
マッカーサーはゆっくりと地図の上の沖縄に指を置いた。
「空軍は空軍の戦争をしておれ。──我々は我々の戦争を始める」
「は」
「上陸開始日──予定通り四月一日、決行とする。すべての部隊に前進命令を発せよ」
命令は、静かに、だが確実に発せられた。
嵐の始まりは目前だった。




