第69話「硫黄島・米兵の肉弾戦」
1945年3月15日 深夜――
硫黄島・米海兵隊前線壕内
闇を切り裂いて警戒叫びが上がった。
「斬り込みだ!敵襲!」
「日本兵だ、備えろ!」
米海兵隊第28海兵連隊第一小隊・バージル伍長は、慌ててライフルを構えた。
壕の中を、鋭い日本刀の閃光が駆け抜けてきた。
「撃て!撃てぇ!!」
激しい銃声が重なる。
M1カービン、BAR、自動拳銃――
無数の発砲が狭い塹壕内に響き渡った。
だが、突入してきた日本兵たちは、被弾しているはずにも関わらず倒れない。
**
「なんだ……?あいつら倒れないぞ!?」
**
バージルの隣を走っていたマーフィー兵卒が、日本刀の一閃で肩を深く切られた。
「ぐっ――うわあっ!」
マーフィーがうずくまる。
「マーフィー!!」
バージルは咄嗟に拳銃を抜き、至近距離から突進してくる敵兵に向けて発砲した。
パンッ! パンッ! パンッ!
だが――
敵兵は明らかに胸部と肩に命中しているはずだった。
それでも一切怯まず、そのまま真正面から突進してきたのだ。
「くそっ――!」
敵兵の日本刀がバージルに振り下ろされる。
辛うじてバットで受け止め、渾身の拳を叩き込む。
**
ドガッ!!
**
敵兵の顔面に拳が食い込み、一瞬たじろぐ。
その隙を逃さず、さらに蹴りを叩き込んだ。
「うおおおおお!!」
最後は抱きかかえるようにして壁際に叩きつけた。
敵兵は呻き声を上げ、そのまま崩れ落ちる――気絶。
息を荒げるバージル。
「はぁっ……はぁっ……」
敵兵の胸元には弾痕は残っておらず、代わりに小さな砂糖玉が数粒散らばっていた。
だが彼にはその異様さを確認する余裕すらなかった。
「衛生兵!!マーフィーを頼む!!」
**
壕内は再び短い静寂に包まれた。
夜間切り込みは一旦、押し返されたのだった――。




