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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
戦後世界を見据え
60/133

第60話「大阪の空と小さな金平糖」

1945年3月14日 午前10時45分――

大阪市・阿倍野区 路地裏の防空壕前


空襲警報は既に鳴り響いていた。

だが、少年たちは防空壕の中にじっとしてなどいられなかった。


「おい、もう始まっとるで!」


木村正夫(小学五年生)は、防空壕の隙間から空を見上げながら声を弾ませた。


「兄ちゃんも、あの飛行機に乗ってるんや!」


彼は小さな胸を張って誇らしげに言った。


「飛燕いうんやぞ。すごいねんで。ゼロ戦より速いんや!」


横にいた同級生の西川が目を輝かせた。


「ホンマか!?おまえの兄ちゃん、ほんまに乗ってんのん?」


「ほんまや!兄ちゃん、昨日から言うてたわ。」


上空では、銀色のB-29が列をなして侵入してきた。

その周りを小さな点のような飛行機群――日本軍戦闘機が懸命に食らいついていた。


「うわあ、かっこえええ!!」


「おっちゃんが言うてた!アメリカの大きい飛行機や!」


「兄ちゃん、やったれー!!」


子供たちは拳を握りしめ、空へ向けて叫んだ。


「行けぇ!やっつけたれー!!」


「落とせー!!兄ちゃん、がんばれぇ!!」


その時、銀色のB-29の腹部から何かが次々と落ちてくるのが見えた。


「なんか降ってきたぞ!」


「爆弾やないんか!?逃げろ!」


だが子供たちはすぐに走り出さず、そのまま頭上を仰いだ。


パチン――


正夫の頭に何かが軽く当たった。


「いてっ……?」


足元に転がったのは、小さな金平糖だった。


淡いピンク色の、それは見慣れた砂糖菓子だった。


西川が目を丸くした。


「え……あれ爆弾やないんか?砂糖玉やんか?」


「なんで……?」


空からはまだ次々と金平糖の粒が降ってきた。

やがて路地の隅にもカラカラと転がり始める。


「兄ちゃん……なんや、これ……?」


正夫は空を見上げたまま、小さく震えながら呟いた。


上空では、銀色の要塞たちがなおも悠然と進撃を続けていた――。

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