第59話「大阪爆撃・投弾開始」
1945年3月14日 午前10時44分――
大阪市上空・B-29「スーパーフォートレス」先頭機
「爆撃倉、開放完了!」
爆撃手の緊張した声が無線に響く。
「投弾目標、照準安定――電磁投下装置作動します!」
ルメイは眼下の大阪市街を食い入るように見つめていた。
家並み、工場、広がる街――すべてが鮮明に映る昼間の空襲。
「これで燃えなければ、悪夢だぞ…」
「投弾まで――3、2、1……」
ガション! ガシャガシャガシャ――
投弾装置が作動音を響かせ、焼夷弾群が次々と投下された。
銀色の弾丸が回転しながら高度8,000メートルの上空から降下を開始する。
眼下の大阪市街はまだ静寂のままだ。
人々は防空壕へと逃げ込み、道路は既に封鎖されている。
だが頭上からは無数の細長い弾丸が雨のように降り注いでいく――。
同時刻――
吉村中尉は、投弾されていく無数の爆弾を真上から見つめていた。
「……やらせるものか……!!」
彼はわずかな高度差を詰めようと、必死に機首を持ち上げた。
だが弾もなければ、速度も足りない。
ただ、次々と投下されていく焼夷弾を、息を呑みながら見届けるしかなかった。
銀色の爆弾群は、正確無比に街の中心部へ吸い込まれていく。
その光景は、まるで死神の鎌が街へ降り注ぐようだった。
「燃えるな……お願いだ、燃えるな……!!」
吉村は祈るように呟いた。
B-29機内――
ルメイはなおも凝視を続けていた。
「……これでどうなる?」
「今度こそ、炎上するはずだ……」
高高度の薄い大気の中、爆弾は正確に降下を続け――
ついに、大阪の街へ次々と着弾し始めた――!




