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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
戦後世界を見据え
55/133

第55話「大阪昼間空襲警報受信」



1945年3月14日 午前8時――

東京・市ヶ谷 大本営第一防空司令部 作戦室


通信士が慌ただしく駆け込んできた。


「新報!敵大型編隊、サイパン方面より大阪方面へ向け進行中!」


「出撃推定――200機超!」


参謀次長・藤川大佐は即座に指示を下す。


「関西防空区、全防空部隊、戦闘配備せよ!」


「高射砲隊、対空機銃隊、陸軍航空隊、即刻迎撃準備!」


幕僚たちがざわめく。


「閣下……今度は昼間来襲です。」


「白昼の大規模都市爆撃など、初めてではありませんか。」


「敵も何か策を変えたのでしょう。」


藤川大佐は地図盤をじっと見つめたまま答えた。


「……恐らくは。」


「爆弾を降らせ、なお延焼せず……。ならば奴らは、今度は目視で確認せんと踏んだのだろう。」


その時、参謀補佐が最新報告書を持参する。


「閣下。昨日名古屋に墜落した敵爆撃機の内部調査報告、一次分析が上がっております。」


藤川大佐は報告書に目を落とした。

そして、静かに呟く。


「……やはり、積んでいるか。」


「高燃焼性液体を充填した弾体。猛烈な発火性を有す。」


副官が息を呑む。


「つまり――焼夷弾、ですね?」


「間違いない。」


藤川大佐は言葉を継ぐ。


「だが……なぜ、それを落とさん?」


「なぜ毎度、代わりに甘味ばかりが街に降り注ぐのだ?」


作戦幕僚たちも答えられず顔を見合わせる。


「積んでいるのに投下しない――」


「甘味物質ばかり撒き散らす――」


「まったく敵の意図が読めません……」


藤川大佐は低く唸った。


「一体これは、戦争なのか、悪戯なのか……?」


だが疑念を抱く暇もなく、敵編隊は大阪に接近しつつあった。


藤川大佐は短く命じた。


「全防空戦力、迎撃準備を継続せよ。」


「今日こそ、奴らの狙いを掴む。」


作戦室に漂う空気は、異常な緊迫感に満ち始めていた。

奇妙な戦争は、昼間という新たな舞台へ突入しようとしていた。

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