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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
戦後世界を見据え
53/133

第53話「アーノルドの葛藤」

1945年3月13日 午前――

ワシントンD.C. 陸軍航空軍本部


窓の外はまだ冷え込む早春の朝だった。

だがアーノルド大将の執務室は、既に報告書の山に埋もれていた。


参謀のロジャース大佐が新たな電報束を抱えて入室する。


「大将、サイパンより3日間の作戦報告がまとまりました。」


「東京、名古屋、再度東京への連続爆撃です。」


アーノルドは椅子に深く腰掛け、眉をひそめたまま報告書を受け取った。


厚手の封筒には、ルメイ少将直筆の署名が入っていた。


「……さて――」


彼は低く呟きながら書類を読み進めた。


「……出撃機数、投弾量、整備状況、編隊行動……」


「撃墜損失――各日5〜15機前後……」


「……だが――戦果報告が……無い。」


アーノルドは重ねて読み直した。


「市街延焼記録なし、爆発確認薄弱……全て原因不明、か。」


ロジャース大佐が補足する。


「加えて、ハワイの無線傍受班(SIGINT部隊)からの報告も上がっております。」


「日本側の内部通信では、損害が予想を大きく下回っている可能性が高いと。」


「市街火災発生数も異様に少ない、と分析されております。」


アーノルドは静かに天井を仰いだ。


「……焼夷弾6000トンが3日間も落とされて、都市が焼けないというのか。」


「そんな馬鹿な話があるか……」


しばし沈黙の後、アーノルドは机上の直通電話に視線を落とした。


その先は――ホワイトハウス、大統領執務室へ直結している。


「大統領には、作戦進行は順調と報告は上げた。」


「だが、結果がこうだとなれば――何と説明すればよい?」


ロジャースは声を潜めた。


「現場からは、爆薬の品質、天候条件、整備不良……いずれも原因否定が続いております。」


「ルメイ少将も、現在『不可解なる爆発不全現象』として報告を整理中です。」


アーノルドは重々しく溜め息を吐いた。


「“不可解”だと?……」


「大統領が求めているのは、敵都市が焦土となった証拠なのだ。分析報告などではない。」


しばしの沈黙――


アーノルドは静かに呟いた。


「……一体、何が起こっている?」


「この戦争は――何かが狂い始めている」


その時、また新たな作戦報告電報が運び込まれた。


そこには、間もなく開始される第二次東京爆撃計画の詳細が記されていた。

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