第50話「ルメイの詰問と次回作戦計画」
1945年3月12日 午後――
サイパン・第21爆撃集団司令部 司令室
重苦しい空気が室内を満たしていた。
ルメイ少将は報告書を机上に叩きつけるように置いた。
「名古屋作戦、撃墜15機、行方不明さらに数機……爆発報告ゼロ。炎上確認ゼロ。」
報告官のケラー参謀中佐が低く報告を続ける。
「投弾は全編隊正常に実施、高度修正も完了しておりました。整備不良、搭載不備は皆無との報告です。」
ルメイは椅子から立ち上がり、部屋を歩き回った。
両手を後ろに組み、怒気を押し殺す。
「――では聞こう。誰の責任だ?」
部屋が凍りつく。誰も答えられない。
ルメイは鋭くケラーを睨んだ。
「搭乗員か? 整備班か? 作戦幕僚か? それとも――」
「私の責任かと、君たちは言いたいのか?」
沈黙が続いた。ケラーは震える声で答えた。
「原因は……現時点では特定不能です。ですが…硫黄島方面の海軍情報部経由で一部奇妙な報告が出ております。」
ルメイの目が細まった。
「奇妙な報告だと?」
「は。現地地上戦において、艦砲射撃が命中しても地面に全く爆裂跡を残さない事例が出始めているとのことです。海兵隊員の一部が"白い霧のようなものが散った"と証言しております。」
ルメイは机を強く叩いた。
「ふざけた話だ!!」
「東京、名古屋、硫黄島……同じように爆薬が不発だとでもいうのか?それとも……これは何かの悪夢か?」
しばし沈黙ののち、ルメイはふっと鼻を鳴らした。
「上層部――アーノルド大将へは、原因不明の現象とだけ上げろ。」
「……原因は必ず突き止めるが、私の作戦指揮に瑕疵があったとは絶対に報告するな。」
ケラーが静かに頷いた。
「次回作戦は、予定通りでしょうか?」
ルメイは低く答えた。
「次は東京だ。3月13日夜間、再度大編隊出撃――」
「ただし、今回は一部通常爆弾を混載する。焼夷弾だけでは信用ならん。」
「高度は再び見直す。少なくとも名古屋のような低空地獄は二度と許さん。」
ルメイの目には冷酷な炎が宿っていた。
「――敵を焼き尽くす。その任務は変わらん。」
作戦室の空気は、再び異様な静寂に包まれていった。