表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
違和の夜明け
47/133

第47話「名古屋空襲翌朝:墜落現場の混乱」

1945年3月12日 午前6時――

名古屋市 南区・工場地帯


夜明けと共に、巨大な鉄塊が朝陽を浴びていた。

墜落したB-29の胴体は、まるで戦艦が工場街に突っ込んだようだった。


片翼は道路を塞ぎ、破断した主脚は住宅地をえぐり、あたり一面に甘味様の物体が散乱していた。


現場では消防団、陸軍憲兵、警防団が混乱の中で必死に市民を制止していた。


「危険だ! これ以上近寄るな!」


憲兵伍長が竹棒を振り回しながら叫ぶ。


だが子供たちは瓦礫の隙間から飴玉やキャラメルを拾い、袋に詰め込み続けていた。


「母さん、飴だよ! いっぱい落ちてるよ!」


母親が慌てて子を抱き寄せた。


「だめだっ、戻ってきな憲兵だよ!」


周囲の大人が誰問わずに声を発する。


そこへ現場を統率する陸軍憲兵中尉が走り寄る。


「貴様らッ! 何度言わせるのだ!素手で触るな!死ぬぞ!」


兵士たちも続々と防疫用手袋を着用し、慎重に甘味状の異物を回収し始めた。


副官が現場を見回しながら苦々しく報告する。


「中尉殿……情報の通りでした。町中にこの甘味物が溢れております。」


「……まったく信じ難い……」


憲兵中尉は大きく溜め息をついた。


「毒物か、何かの心理攪乱か……敵の意図は測り難い。」


付近の瓦礫の影では、墜落機から救出された米兵捕虜が既に拘束され、護送車に積み込まれていた。


「こいつらから事情を聞ければよいが……」


副官は小声で呟いた。


その頭上を、陸軍航空偵察機が旋回を始める。

銀色の胴体が朝日に鈍く光っていた。


名古屋の街は、またも異様な沈黙と甘い香りに包まれながら、ゆっくりと奇妙な朝を迎えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ