第46話「名古屋空襲速報 東京軍司令部」
1945年3月12日 午前2時――
東京・市ヶ谷 大本営防空総本部 作戦室
深夜の作戦室。次々と無電報告が積み上がる。
緊急通信士が各方面隊から届く電報を読み上げていた。
「名古屋防空司令部より戦果報告――」
「撃墜確認、現認15機以上!」
「高射砲、機関銃射撃ともに戦果多数!」
陸軍防空参謀・高橋中佐が眉をひそめる。
「撃墜数……昨日の帝都防空に比して倍増しているな。」
副官が続ける。
「敵は高度を大幅に下げました。最低侵入高度、約1300〜1500メートルとのことです。」
海軍幕僚が苦々しく唸る。
「そこまで降りて投弾継続とは、常軌を逸している。」
高橋中佐は無言で報告書をめくり、静かに尋ねた。
「それで――被害は?」
通信士が答える。
「市街延焼報告――小規模出火に留まります。民間負傷は墜落機による直接被害の他、自軍高射砲・機銃弾片の落下に伴う流血者が多発しております。」
参謀たちは互いに顔を見合わせた。
「……また、だ。」
「昨日の東京と同様だな。」
「投弾規模は甚大、だが焼失も爆裂もない……」
高橋中佐が進言する。
「閣下、現地確認が急務にございます。直ちに航空偵察を派遣させては。」
参謀長・柴山少将は重々しく頷く。
「うむ。陸軍航空偵察隊を即時発進せよ。」
「はっ!」
柴山少将はしばし黙考したのち、静かに周囲に問いかけた。
「――落下物は……昨日と同様か?」
誰も即答できぬまま、作戦室に再び奇妙な静寂が広がった。