第42話「急激な撃墜増加」
1945年3月12日 午前0時35分――
名古屋陸軍防空司令部
「敵編隊、低下中! ――繰り返す、高度降下中!」
通信士の報告に、参謀席がどよめいた。
参謀長・藤崎大佐が驚愕の声をあげる。
「なに!? あの巨体で――さらに降りるだと!?」
副官が追い打ちをかける。
「高度約1500メートル台、いや、1300メートルに迫ります!」
司令部の観測員が肉声で報告を続ける。
「目視可能距離に入っております!敵機の機体番号すら視認可能にございます!」
探照灯班からも報告が上がる。
「探照灯、敵爆撃機複数照射成功!」
一瞬、司令部内の空気が変わった。
苛立ちと困惑に支配されていた防空陣営に、わずかな高揚が生まれ始める。
「低いぞ! 今なら撃てる!」
「奴らは自ら射程に入ってきたぞ!」
「高射砲第8連隊より報告――命中弾確認!」
「第4陣地より追加撃墜確認――火炎を吹きつつ墜落!」
立て続けに報告が殺到した。
「市街北部、墜落確認!」
「南区工場地帯、墜落火災発生!」
「桜山方面、墜落機体燃焼中!」
藤崎大佐は思わず拳を握った。
「撃墜数、合算は?」
「現在までに目視撃墜、既に9機!なお上昇中にございます!」
副官が叫んだ。
「やっと……やっと防空戦果が挙がっております!」
だが、藤崎の表情は複雑だった。
これほど撃墜が続くのは尋常ではなかった。
「何故……奴らは低空へ突入した?」
「投弾精度向上のためと思われます。」
「――いや、それだけか……?」
藤崎は苦々しく天井を睨んだ。
戦局は思わぬ局面を迎えていた。
だが、爆弾の炸裂は――相変わらず聞こえてこない。




