第38話「迎撃開始」
1945年3月11日 深夜――
名古屋市郊外・陸軍高射砲第8連隊陣地
闇夜の中、高射砲陣地では緊張が極限に達していた。
隊長の田代中尉が双眼鏡で夜空を睨む。
「敵編隊、北西より接近中!」
「照準座標、計算完了!」
「弾幕射撃用意!」
副官が緊張した声で次々と命令を下す。
探照灯部隊が稼働を開始した。
強烈な白色光が夜空を切り裂き、雲間に向けて交差する。
やがて――
「確認!敵影!編隊確認!」
高高度を編隊を組んで侵入する銀色の巨体が、照射された探照灯の中に次々と浮かび上がる。
「まるで空が埋まっておる……!」
若い兵が思わず漏らす。
その瞬間――
「撃て!!」
田代中尉の怒声と共に、四式十二糎高射砲が火を噴いた。
ドゴォォォン――!
曳光弾と砲弾の炸裂光が夜空に連続して広がっていく。
一方、名古屋東飛行場――
夜間戦闘機隊「屠龍」・「月光」が次々に滑走路を離陸していく。
「目標は敵爆撃編隊!普段と違い低高度にいる!敵機発見次第迎撃せよ!」
パイロットたちは黙々と機体を操り、闇夜の中へ消えていく。
高射砲弾はなおも激しく炸裂を続けていたが、敵編隊は巨大な陣形を崩さぬまま、まるで悠然と進入を続けていた。
「全弾、爆心高度到達!弾幕持続!」
「……落ちぬ、落ちぬぞ……!」
田代中尉は歯を食いしばる。
「――奴らの厚い装甲め……だが止めねばならん!」
夜空に響く砲声と照明光。
名古屋の夜が、再び地獄の闇へと変貌し始めていた――




