第37話「再びの警報」
1945年3月11日 午後11時――
名古屋陸軍防空司令部
市内の灯火管制は完全に施行され、真っ暗な闇が街を覆っていた。
その静寂を破るように、警報サイレンが再び鳴り響く。
「敵大編隊、接近中――!」
通信室に緊急通報が次々に流れ込む。
「B-29編隊、紀伊半島沖通過!」
「編隊数、おおむね三百機規模!先日と同等の規模!」
司令部内の幕僚たちが顔を見合わせた。
先日の東京空襲の記憶が、生々しく全員の脳裏をよぎる。
参謀長・藤崎大佐が沈痛な表情で呟いた。
「……また奴らが来たのか。今度は名古屋だと?」
副官が緊張気味に補足する。
「防空総本部より警報発令。迎撃部隊、対空砲火、即時戦闘配置との通達です!」
藤崎大佐は地図上の進路を指さす。
「先日は東京を襲撃しておきながら、火災は極めて軽微であった。今度は……?」
幕僚の一人が小声で囁いた。
「今回も……あの奇妙な爆弾なのでしょうか…」
藤崎は厳しく一喝する。
「油断するな!昨日は偶然だ!今夜は奴らも本気で来る!」
通信士が次々と報告を上げる。
「高射砲陣地、即時展開中!」
「月光、屠龍 各夜間戦闘機部隊出撃準備完了!」
「探照灯班、配置完了!」
藤崎大佐は息を深く吸い、叫んだ。
「全戦力、迎撃用意!」
「はっ!」
外では再びサイレンが街に鳴り響いていた。
人々は避難壕へ走り込み、街は再び不気味な闇に包まれていく。
そして――
帝都の次に、名古屋の夜が試されようとしていた。




