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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
違和の夜明け
35/133

第35話「名古屋作戦ブリーフィング」

1945年3月11日 午前11時――

サイパン・アイランダー基地 ブリーフィングホール


ブリーフィングホールには、300名を超えるB-29搭乗員たちが整然と整列していた。

前夜の東京空襲の不可解な結果が、皆の胸に重くのしかかっている。


司令官席にはカーチス・ルメイ少将が着席していた。

参謀が作戦概要を簡潔に読み上げる。


「目標は名古屋市街中心部。低高度侵入、投弾開始高度は5,000〜8,000フィート。」


「爆弾搭載は前回同様、M69焼夷弾中心。弾薬点検は全弾終了済み、装填確認良好。」


ざわつく搭乗員たちの中から誰かが小声を漏らした。


「また低高度か……まったく頭おかしい作戦だぜ……」


「今度はちゃんと燃えるんだろうな?」


「整備班は問題なしって言ってたが……」


「東京の件、まだ原因わかってねえんだろ?」


誰もが内心の不安を隠しきれずにいた。


その空気を切り裂くように、ルメイ少将が立ち上がった。

重く低い声がホール全体に響く。


「諸君――」


一瞬で場内が静まり返る。


「前夜の東京は、予定した効果が十分に発揮されなかった。だが、弾薬は完全に正常であり、投弾手順も完璧だった。原因は不明だ。だがそれに臆する必要はない。」


「本日の名古屋作戦も、東京と同じ低高度戦術を採用する。これは日本を崩壊させるための最も効果的手段だ。」


ルメイは一拍置き、さらに声を強めた。


「諸君らの仕事は投弾することだ。爆弾は間違いなく作動する。昨日の"異常"に惑わされるな。」


鋭い眼光で全員を見渡す。


「この任務は、日本の工業力と民間士気に致命傷を与える。ここで我々が躊躇すれば、無数の米兵が更なる血を流す。」


「…諸君は任務を全うせよ。」


「…以上。」


静まり返ったホールに、淡々と「解散!」の号令が響いた。

搭乗員たちは各自の搭乗機へと散っていく。


その表情には、決意と、拭いきれぬ不安が混じり合っていた。

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