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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
違和の夜明け
32/133

第32話「ルメイの疑念と決断」

1945年3月10日 夜――

サイパン・アイランダー基地 第21爆撃軍司令部


司令部会議室では、依然として東京作戦の戦果報告書が机上を埋め尽くしていた。

航空写真班が持ち帰った膨大な画像。

しかし、そこに映る東京は――焼けていなかった。


「火災旋風形成なし。延焼面積はわずか。建造物大半が現存。」


報告書を読み上げる参謀の声も、どこか困惑していた。


ルメイ少将は報告書を叩きつけるように閉じた。


「どういうことだ……」


作戦参謀のトーマス中佐が慎重に進言する。


「閣下、機体整備・爆弾装填・投弾高度、いずれも計画通りでありました。」


「だが……結果が出ていない!」


苛立ちを隠せぬルメイは苛烈な視線を参謀団へ向けた。


「弾が不良だったのか?爆弾倉が開かなかったのか?あるいは……」


少し間を置き、苦々しく吐き出した。


「……貴様ら、まさか投弾せずに引き返したんじゃないだろうな?」


参謀たちの顔が一斉に強張る。


「い、いえ!閣下、全編隊投弾記録確認済みにございます!」


ルメイは両手をテーブルに置いたまま、低く呟いた。


「だが……燃えたじゃないか。」


誰もが沈黙した。


「――ここでは。昼間の試射では、爆弾は見事に燃えた。」


その言葉の通り、先ほど実施された弾薬試射は完全に成功していた。


サイパン島の実験場に投下された焼夷弾束は、

空中分離と同時に強烈な火炎を吹き上げ、地表を炎で覆い尽くしていた。


「弾薬に不備は無い。機体にも不備は無い。投弾も行われた――ならば…」


ルメイは天井を見上げる。


「……奴らは、本当に東京を攻撃したのか?」


一瞬、司令部内に冷たい沈黙が流れる。


作戦主任のモリス中佐が静かに声を発した。


「閣下、仮に地上から欺瞞情報が発信されている可能性も……」


「市街地全域でか?この規模の偽装を可能にする手段があるのか?」


ルメイは唇を歪めた。


やがて苛立ちを抑え、短く命じた。


「――名古屋は予定通り進める。明日夜、全機出撃だ。」


「はっ!」


参謀たちは同時に敬礼した。


「ただし……」

ルメイはゆっくりと言葉を継いだ。


「今度こそ――奴らの街を確実に燃やせ。」


こうして――

B-29の第二次大編隊は、新たな謎を抱えたまま再び飛び立とうとしていた。

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