第30話「硫黄島・最前線の異変」
1945年3月10日 午前10時30分――
硫黄島西側、第3海兵師団・歩兵第21連隊前進陣地
火山灰の黒い大地に、米海兵隊の突撃部隊は身を潜めていた。
背後からは絶え間なく銃声と迫撃砲の着弾が響き、前方の岩場からは依然として激しい日本軍の銃撃が続いていた。
分隊長のカーター軍曹が無線機を握りしめる。
「こちら第2小隊、支援砲撃を要請する!目標は座標Q-17!地下壕と機銃陣地を排除せよ!」
無線兵が即座に復唱し、艦隊砲撃指揮所へ送信した。
「前進艦砲支援、座標Q-17、即時射撃要請!」
数分後――
「砲撃くるぞ!! 全員頭を伏せろ!」
兵士たちが火山岩の影へ身を潜めると、遠く洋上からの重低音が響いてきた。
ドォォォン――!!
主砲の炸裂音が次々に届く。
だが――
「……着弾確認!」
前方を見張っていた兵士が叫んだが、その声には困惑が混じっていた。
「爆発……しないぞ!?」
着弾地点に火柱は上がらず、土煙もあがらない。
代わりに、もやのような白い煙が、ふわりと漂い始めた。
「なんだあれ……?」
カーター軍曹も双眼鏡を覗き込んだが、はっきりとはわからなかった。
ただ、砲弾が本来えぐるはずの地面は無傷のまま――
「敵いまだ健在!反撃続行中!」
機銃掃射の曳光弾が再び海兵隊員たちを襲う。
さらに第二斉射。
習性射撃により砲弾はやや前進部隊寄りに着弾した。
ズドン――!
「近い!伏せろ!!」
土埃と共に何かが飛散した。
すぐ近くの砲弾跡と思われる小さな窪地に、奇妙な白い物体が散らばっていた。
砕けた火山岩の間に、ふわりとした綿のようなものが大量に散乱している。
「こ、これは……?」
兵士がそっと指先でつまむ。
「……ポップコーン……みてぇだが……そんな馬鹿な……」
だが、砲弾は確かに撃たれ、確かに着弾したのだ。
しかし、そこにあるのは――爆風でも破片でもなく、白く膨らんだ不気味な物体だけだった。
誰もが、この異様な現象の意味を理解できずにいた。
戦場には、ますます奇妙な違和感だけが積み重なっていく。




