第23話「異常報告会議」
1945年3月10日 午前7時――
東京・皇居外苑 大本営陸海軍合同作戦会議室
帝都防空戦の第一報が、続々と大本営作戦会議に集まり始めていた。
「侵入敵機数、推定三百機規模」
作戦課将校が淡々と報告を読み上げる。
「高射監視所、各沿岸監視所、目視記録及び電波探知からの集計による概数であります。」
「撃墜確認は?」
「市街地内墜落、二機現認。郊外にて三〜四機。目下確認可能な範囲で合計五〜六機と推定されます。」
海軍軍令部次長・小沢治三郎中将が、やや嘲るように低く呟く。
「三百もの大編隊を迎え撃ち、撃墜現認わずか五、六機か……」
陸軍航空総監・多田駿大将が静かに応じる。
「敵は新たな低高度編隊戦術を用いてきた。高射砲も夜間戦闘機も本来高高度迎撃用に配備されている現状では、効果は限定的。」
小沢中将の皮肉は止まらなかった。
「つまり、空は穴だらけということだな。帝都上空を三百機が悠々侵入して、事実上素通りされたと――」
陸軍次官・佐藤賢了中将が鋭く反論した。
「小沢中将殿、言葉を慎んでいただきたい。防空統制は陸軍航空の専管である。戦局逼迫の中、高射砲も航空隊も全力投入中である。」
「陸海統合の不備が今ここで露呈したわけではあるまいか?」
「貴官こそ言う資格があろうか。」
険悪な空気を切るように、陸軍参謀総長・梅津美治郎大将が静かに口を開いた。
「よい、責任論は後にせよ。問題は――結果だ。」
作戦課将校が次の報告を読み上げる。
「延焼区域、極小。大火災形成なし。市街地の大半は無事。瓦礫・小規模火災は点在するが既に消防隊が鎮圧中。」
小沢中将が眉をひそめた。
「このような大規模攻撃にしては異様だな……」
副官が卓上に白布包みを置く。
開封され、中から色とりどりの甘味が露出した。
飴玉、キャラメル、砂糖塊、板チョコ状の物まで。
「これが現地で拾得されたものであります」
佐藤中将が苛立ちを滲ませた。
「姑息な策だ。飢餓国民に甘味を撒いて毒を盛る。外道極まれり。」
多田大将も苦々しく唸る。
「これがこの攻撃の成れの果てだと……?」
梅津大将はゆっくりと目を伏せる。
「我々も戦果なし、敵も戦果とよべるものはなし、火災もなければ、毒菓子撒布だと……。常識を越えた状況だ、この攻撃の意図は何だ?」
重苦しい沈黙が、会議室全体を包み込んでいった。




