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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
常識が崩壊し始める開戦の序章
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第17話「戦果確認不能」

1945年3月10日 午前1時50分――


B-29編隊・最終隊列隊長機「Liberty's Vengeance」

機長:アルバート・クロフォード中佐。


高度5,000フィート、帝都上空最終航路。

クロフォードは双眼鏡を目に当て、無線レポートを続けていた。


「第21爆撃軍司令部宛――こちら最終編隊隊長機。投弾航路維持中。」


爆撃手のリチャード軍曹が、冷静に照準器を調整している。


「全機、爆弾投下完了確認。進路、予定通り。」


クロフォードはゆっくりと眼下を見渡した。

そこに広がる東京市街は、あまりに奇妙だった。


「……火が、思ったほど……立っていないな……」


副操縦士のグレッグ中尉が小さく呟く。


「ほんの数箇所、炎上箇所確認――だが規模は小さく限定的。おそらく……墜落した僚機の二次火災か」


通信士が無線送信を開始する。


『司令部宛。目下確認される火炎箇所、若干数。規模限定。投弾効果、現段階で目立った火災旋風形成確認できず。』


クロフォードは眉をひそめた。

この作戦の理論は焼夷弾による都市火災旋風の発生に依存していた。それが――ほとんど発生していない。


「おかしい……」


航法士のジェームズが付け加える。


「天候は理想的です。湿度、風向、全て計算通り。燃えない理由がないはずです。」


クロフォードは双眼鏡のピントをさらに合わせた。

だが――


そこに広がるのは、依然として闇に沈む広大な東京の街並み。

市街は見事なほどに漆黒の海だった。わずかな灯火管制下の灯りさえ完全に遮断され、まるで都市そのものが存在しないかのように沈黙している。


「探照灯が……」


クロフォードの視界に、複数の探照灯の光柱が伸びるのが映った。

だがそれは、焼夷弾の爆煙を照らすのではなく、淡く霧のような層を揺らめかせるだけだった。


「探照灯が空を彷徨っているだけだ……目標を照らせる炎がない……」


無線は続く。


『投弾後30分経過。現段階、戦果目視確認困難。現場視界良好なれど火災旋風兆候なし。司令部、応答願う。』


クロフォードはゆっくりと無線マイクに向かう。


「司令部、こちら最終隊列隊長機クロフォード中佐。目下、戦果報告不能――


目標市街地における爆発・火災確認極小。

見渡す限り、敵の探照灯が我々の下を漂うのみ。


東京市街、依然として――漆黒の闇。」


彼は最後の一言を、ほとんど囁くように絞り出した。


そのままB-29編隊は、誰も理解できぬ異様な静寂を背にしながら、帰還コースへと入っていった。

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