表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
常識が崩壊し始める開戦の序章
14/133

第14話「闇夜の逆襲、そして……」

1945年3月10日 午前1時22分――


B-29「Sky King」機内。

機長ロバート・ハミルトン大尉は、爆撃侵入コースを保ちながら、わずかに口を開いた。


「爆弾倉、開放」


ゴウン――と鈍い機械音とともに、腹部ハッチが開き、爆弾が次々に滑り落ちていく。

焼夷弾、M-69。

ナパームを詰めた新兵器は、今まさに東京市街の夜へと吸い込まれていった。


「照準完了……投下!」


爆撃手ジェフの声が緊張と共に響く。

そして――機内に静寂が戻る。


「……よし、投下完了。進路離脱だ」


だが、その直後だった。


「右後方高角!敵機接近!」

尾部機銃手の叫びがヘッドセットに叩きつけられた。


ロバートが振り向くより早く、夜空の闇を裂いて細長い機影が滑り込んでくる。白い尾灯――


月光げっこうだ……!」


日本海軍夜間戦闘機 J1N1。重武装の20ミリ機関砲を備え、B-29狩りに特化した殺し屋だった。


「射撃準備!機動回避開始!」


ロバートは大きくバンクを切るが、月光は驚異的な上昇角で一気に背後へ迫る。

そして、20ミリ機関砲の閃光が走った。


ダダダダダダダ――!


「被弾!左翼外縁、燃料タンク直撃!」

副操縦士の絶叫が重なる。炎が機体左側から噴き出し、火の手は瞬く間に胴体へ這い寄っていく。


「冷却失敗!推力低下!コントロール不安定!」

機関士の悲鳴に近い報告。


「エンジン2番停止!油圧喪失!」


ロバートは全力で操縦桿を引く。だが重力に引きずられるように機体は降下を始めた。


「これ以上は無理だ!全員脱出用意!!」


緊急脱出警報が機内に鳴り響く。爆撃手、航法士、通信士が次々と脱出ハッチを蹴り上げ、暗闇へ飛び出していく。


最後にロバートが飛び出した時、燃えさかるSky Kingは、まるで赤黒い流星のように東京市街へと落下していった。


――落下傘降下中――


ロバートは漆黒の夜空の中、静かにゆっくりと降下していた。

風は強く、視界は狭い。だが、はるか下方に広がるはずの東京市街地が、あまりに奇妙な様相を見せていた。


「……なんだこれは……」


本来なら、今頃あちこちで炎が吹き上がり、火災旋風が都市を呑み込んでいるはずだった。

だがそこに見えたのは――


闇に沈む市街地の中に、淡く光る白い靄のようなものが一面に漂っていた。まるで雪の結晶が浮遊しているような光景。


「火災旋風が……発生してない……?」


パラシュートの紐が風に揺れ、ロバートの体はゆっくりと旋回する。その度に東京の街が別の角度から現れるが、どの方角にも火柱は見えなかった。


「ナパームを落としたのに……どういう……」


だが彼はまだ気づいていない。

今、自分が目撃している"白いもの"が、本来ナパームが撒き散らしていたはずの粘着炎ではなく、ある"異常な物質"に置き換わり始めていることを――


その先には、まだ誰も知らぬ"甘味戦線"が、静かに幕を上げつつあった。


漆黒の東京上空。

落下傘の彼方に、なおもB-29の銀翼が次々と侵入していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ