第10話「探知」
1945年3月10日 午前0時過ぎ――
千葉県・犬吠埼海軍防空監視所。
漆黒の夜空を背に、巨大な受信アンテナがゆっくりと回転していた。日本海軍の対空監視網は、すでに全国をカバーしていたが、アメリカの大編隊に対しては常に出遅れていた。
「異常反応――!」
電波手が叫んだ。
監視所長の吉田中尉がすぐさま駆け寄る。
「距離は?」
「南東約250キロ、複数波形――これは……多数です! 少なくとも百数十、いや二百以上の反応が重なっております!」
吉田は息を呑んだ。
これまでのB-29空襲は最大でも100機規模だった。それを遥かに上回る大編隊が、今この瞬間、東京を目指して北上している。
「情報電文打電!総合司令部へ!敵大編隊接近中!」
無線士が慌ただしく報告を打電していく。
同時刻、東京第一防空総司令部(市ヶ谷)。
「犬吠埼より急報! 敵大編隊接近中とのこと!」
幕僚たちが一斉に顔を上げた。司令官の樋口季一郎中将は沈痛な面持ちで報告書を受け取る。
「敵機数推定?」
「三百機超とも――」
「馬鹿な……今までに例がないぞ。」
幕僚の誰もが動揺を隠せなかった。高高度爆撃とは異なる異常な飛行編隊、そして異様な機数。
何かが、これまでの空襲とは決定的に違っていた。
「即刻、全地域に警戒警報発令!空襲警報第一号を出せ!」
「ハッ!」
サイレンが、東京、千葉、神奈川、埼玉の各地でけたたましく鳴り響き始めた。市民たちは夜半にたたき起こされ、防空壕へと駆け込んでいく。
「この規模……本土決戦前夜のようだ……」
幕僚の一人が呻いた。
午前0時15分――
南の空には、まるで闇を埋め尽くすかのように銀色の点が次々と出現し始めていた。
「……来たな」
樋口は重く呟いた。
その視線の遥か彼方には、B-29の巨大な空中艦隊が、まさに帝都へ侵攻しつつあった。
まだ誰も知らない。
この夜が"おかしな戦争"の決定的転換となることを――。




