「親切」
大雪の朝、
まずい!!!私は寝坊してしまった。朝6時には起きないと会社に間に合わないのに、今日は
7時30分に目が覚めた。
朝食は食べずに、歯磨き、洗顔もせずに、大急ぎでスーツに着替えて、家を飛び出す。
ダッシュで通勤場所を走る。8時30分には会社に着いてなければならない。
通勤は1時間くらいかかる。徒歩、電車で行く!
いつまた雪が降ってもおかしくないような天気だ。
昨日は夜の12時まで仕事で、終電で帰ったんだっけ。だから、寝坊したんだ。
遅刻の電話はできなかった。携帯電話の充電は切れていた。充電すら忘れていた。
それだけ昨日は疲れていたんだ。
駅の近くまで来ると、道路に、かなり年老いたおばあさんが倒れていた。
凍った雪の上にそのまま倒れているところをみると、きっと意識を失っているのかな?
ただ寝ているだけとは思えない。
しかし、
私は人を気にする余裕などない!!!気にしている場合ではない!!!一刻も早く、会社に着き、
自分の仕事をしなくては。
上司から雷のような怒鳴り声で、叱られるのは火を見るより明らかだ。
おばあさんを素通りした。駅の階段を上がろうとしたときに、ある看板が目に入った。
新しい看板みたいだ。今まで見たことがない。
そこにはこう書かれていた。
「人への親切は、結局は自分のため」
まるで私は神の啓示を受けたかのようだった。
「あのおばあさんを助けろってことかな?神様が私にそう言っているのかな?」
私は10秒階段の前で立ち尽くし、我に返った。
「あのおばあさんを助けてやろう。どんなに急いだって遅刻に変わりない!
一生に一回、損得考えずに困っている人を助けてやりたいって、考えていたじゃないか!!!
今、その時だ!!!」
私は使命感に燃えて、おばあさんのいる場所に戻った。
しかし、そこにはおばあさんはもういなかった。
私はおばあさんを助けてあげる機会を失った。
私はひどく後悔した。
なんで、最初に通ったときにすぐに手を貸してやらなかったの!私は!!!
自分を責めた!!!
自分の無力さに失望して、涙を流しながら、駅に向かった。
会社には行かないとならない。しかし、駅で何か放送されている。
電車が事故を起こしたらしい。
なんと、
その電車はタイミング的に私が乗るはずだった車両だ。
おばあさんを助けようと戻ってなかったら、私は脱線事故を起こしたその車両に
乗っていたのだ。
大規模な脱線事故で、何人もの負傷者と死者が出て、テレビでニュースになっていた。
大雪による影響で、車輪や線路が凍っていて、滑りやすくなっていたらしい。
大雪により、電車が事故で停車してしまっているので、今日は会社は有休を使い、休めることになった。
私はおばあちゃんを助けようと、引き返して戻ったおかげで、今、死なずに生きれている。
あの看板に書いてあることは本当だった。
「人への親切は、結局は自分のためになるんだ」
それを心から実感した。
それからは、なるべく人に親切にしてやろうと、心がけている。
ただ、ひとつ気になった。
私が最初におばあちゃんを見かけたときに、素通りせずに、助けてやったら、
おばあちゃんを実際に助けられたかもしれないのに。
そして、さらに神様からのご褒美があったかもしれない。
あとで後悔しても遅いのだ。
人を助けるチャンスは一回通り過ぎたら、二度と戻ってこない。
そう心に刻んで、今度からは、困っている人を見かけたら、即刻迷わず、助けてやろうと思った。
最初から。
迷わずに。
心から…