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「本当の幸せ」


「僕は一体なにやっているんだろう」


ニート11年目を迎えていた。


社会になんの役にも立っていない。


好きなことも、夢中になれることもない。


夢みれるほど能力があるわけでもない。


テレビやSNSで活躍している著名人を見るたびに、


悔しかった。


「一度、世界最大の富や権力や才能を手にしてみたいな!」


僕は絶対に叶わぬ妄想をしていた。


頭の中だけは自由に考えることができる。


絶対にありえないことも。



布団の中で横になっていると、窓から差し込む日の光が


徐々に奇妙な音を出しながら形を変え、神様みたいな白髪の白いローブのおじさんに変身した。



僕は10秒くらい呆然としていた。何も言葉が出てこない。



神様みたいなおじさんは言った。



「驚いたか?私は運命の神様だ!」


「いや、驚きません!」


僕は強気になった。ありえないことを体験していることはわかっているが、


今日は朝食を抜いたせいか、あまり頭が働かず、感情が平板化しているみたいだ。



「君にはこれから人生を大きく分ける選択をすることになる」


「選択?」


「今から君に友達のオオハシ君から電話がかかってくるが、その電話で遊びに行く誘いを受ける」


「それで?」


「その誘いは人生最大にターニングポイントになる!」


「そうなの?」


「簡単に説明しよう。このような選択だ」


「一つ目は、君がオオハシ君からの電話の誘いに乗り、家を出るところから運命の歯車が回りだす。

君はこれからあらゆる努力をしながら苦難を乗り越え、やがて『世界の王様』になるだろう。

つまり、世界最大の権力者で、世界最大の富を得て、世界最大の名声も得るという人生が待っている」


「まじかよ?嘘だろ?」


「嘘はつかない。真実だ」


僕の心は震えていた。


「そして二つ目は、君はオオハシ君からの電話で誘いを断り、家に居続けることだ。その場合、

これから君はごく普通の人生を送る。恋人ができ、結婚をし、普通に働き、子供を持って、家庭を築き、

母親、父親、祖父、祖母、親戚とも仲良く暮らせる。名声や富、権力とは無縁な人生になる」


「冗談だろ?」


「本当だ。これから1時間後くらいにオオハシ君から電話がくる。君は世界最大の名声を手にするか、

ごく普通の平凡を手にするかの人生最大の選択が迫られる」


「もっと詳しく……」


話しかけた時には、もう運命の神様はいなかった。





「なんだこれ?」



1時間後に僕の人生は決まってしまう。


世界の王様か。つまり、勝ち組になれるということだよな。


平凡な人生か。つまり、負け組ってことだよな。







50年後……





僕は「世界王」になっていた。


文字通り、「世界平和」を実現させ、たくさんの権力を得て、有名になり、結果も残し、歴史に名を

残した偉人になった。


でも、僕は孤独だった。


オオハシとの電話で遊びの誘いを受けて、オオハシの家に行くと、「世界王実現委員会」の


「チシュウ」という宇宙人がいて、それからは……



孤独。


「世界王」になり、名声を手に入れたのはいいけれど、悪の権力と戦うときに、家族、友達、仲間を


すべて失った。人質にさせられて殺されたり、親友のオオハシは俺の身代わりになり、銃で撃たれ


亡くなった。



名声を得て、僕は本当に幸せだったのか?



違う。


いくらお金があっても、力があっても、才能があっても、幸せじゃなかった。


「俺は世界の王。偉いんだぞ?偉大なんだぞ?」


だから何だ?



幸せって何? 何?幸せって?



たくさんの犠牲の上で成り上がった「世界王」という称号も、


「虚しいだけ」だった。





あの時、運命の神様が教えてくれた。


あの時、僕は「平凡な人生」を歩んでいたら、もっと幸せだったんじゃないかとしか思えない。



「何かを得れば何かを失う。得たものが大きいほど、失うものも大きい」


「王様」という名声を得て、真の大切なかけがえのない仲間を失った。




いくら権力があって、名声があっても、幸せとは限らないことを痛感した。



人生で一番大事なものは「仲間との絆」だ。


これが一番大事にするべきものだった。



今更、遅い。


もう、過去には戻れない。



「仲間がいなければ、孤独ならば、何しても虚しくて、苦痛になり、幸せじゃない」



世界の王様になって初めて得た「人生の教訓だ」



「うわあああああああ!!!」



僕は王の間で一人泣き出した。



「さみしいよ。一人だよ。誰も僕のことを理解してくれる人はいないんだ!」



「やっと気づいたか!」


僕の肩に温かい感触が。


僕の肩に手を置いて、優しい声で話しかけてきたのは、


「運命の神様」だった。



「ああああああ!あんたは!!!!!」



「わかっただろう!!!仲間の大切さが!分かち合える人がいなければ、どんな名声も意味がない」



「ああ、名声なんてどうでもよかったんだ。僕が本当に欲しかったもの、望んでいたものは、こんな

地位じゃない!仲間だったんだ!!!」




「また、50年前に戻してやろうか?」



「え?」



「あのオオハシが電話してくる前に戻してやろう!」



「そんなことできるの?」


「ああ、記憶だけ今のまま、50年前の君の体に戻してやる!今度は、しっかりと平凡な人生を

選択して、仲間に囲まれた、幸せな人生を歩みたまえよ!」



「ありがとう!ありがとう!おじさん!!!」




こうして、僕はまた50年前に戻ってきた。


そして、みんなが生きていることが嬉しかった。



世界王としての名声は全く幸せをくれなかった。



「自分は偉大だ!」っていう自己満足すら、虚しいだけだった。


だから何?だからなんだ?


ってくだらなかった。


世界の王様になれても嬉しくない。



やっぱり、みんながいなくちゃ!!!













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