深夜の観覧車
※『第6回なろうラジオ大賞』応募作品です。使用キーワードは『トレーニング』『観覧車』『卒業』。
街外れの小高い山の上にある、寂れた小さな遊園地。
最近、そこに関する不気味な噂が広まっていた。
「深夜の誰もいない時間に観覧車が動いてたりするんだって! 何だか呻き声も聞こえるらしいよ!」
ウキウキした顔でやって来たのは俺の彼女だ。
「ねえ、俊、調べに行こうよ」
「嫌だよ。寒いし、俺ホラーとか苦手なんだって」
「車がないとそこまで行けないじゃん。何なら、独りで車の中で待っててくれてもいいからさ」
「そっちの方が怖いわ!」
深夜、街灯もない山道を軽四で登っていく。真っ暗な山の上の方に、観覧車の黒いシルエットがそびえるのが見えてきたんだけど──。
「ほら、やっぱり動いてるって!」
うう、行きたくないなぁ。
やがて遊園地の駐車場に着いた。
入場門の向こうは真っ暗だけど、ちらちらと小さな灯りが蠢いてるのも見えて、機械がきしむ音や野太い呻き声もかすかに聞こえてくる。
尻込みする俺の腕を引っ張って、彼女は入場門ギリギリまで歩いていく。
そして、強力な懐中電灯で観覧車の方を照らした。
そこにいたのは──。
『むううん!』
『おや、大して動いてませんな、鍛え方が足りんのではないか?』
『何のっ! どっせい!』
──何、あれ。
そこにいたのは、真冬なのにほぼ全裸でブーメランパンツだけを身に付けた、筋肉隆々なおっさん集団。
暗闇の中で頭に小さなヘッドライトだけ着けて、嬉々として回転木馬や観覧車を回していたのだ──ただし人力で。
「あのー、ここで何してるんですか?」
おずおずと彼女が声をかけると、全身を上気させた中年男が近づいてきて、得意満面に答えた。
げっ、この人って──!?
「トレーニング、いや、筋肉との対話である!」
「何でこんなところで?」
「近所のジムが潰れたので、その代わりに拝借している。
無論ここのオーナーの許可は得てるぞ! 電力を使わないことと園内清掃を条件にな!」
そして、彼が俺の顔を見て破顔した。うわ、やっぱりウチの教授だ!
「おお、君はゼミ生の柴田君か! そうか、君も己を磨きに来たのだな!」
「え、いや俺はそんなつもりは──」
後ずさりしたら肉の壁に阻まれた。しまった、後ろを囲まれた!?
「いかんな。そんな貧弱な肉体では社会の荒波に耐えられんぞ。
それでは心配すぎて、君に卒業の単位を出すのが躊躇われるな」
ず、ずるい──っ!
『さあ、君も今日から筋肉仲間だ!』
──俺は今宵、幽霊なんかよりよっぽど質の悪いものに取り憑かれてしまったのかもしれない。