第四話 希望の星
ついに恐れている事が起きてしまった。「神の民」を全員殺し、財産も奪い取るという命令が正式に下され、決行日は来月と迫っている。
「私と私の民の為に三日間、断食し、祈ってください」
私はもうそれぐらいしかできない。ご先祖様の祈りでは断食で肉の欲を断ち、悪霊を追い出したという言い伝えもあった。
侍女達だけ私が「神の民」である事を明かし、三日間連続で断食し、祈りを捧げた。もちろん、桃哉にいちゃんも参加した。妃として与えられた絹の衣を脱ぎ捨て、灰を被り、身を低くし、祈りを捧げ続けた。
「神様、どうかあなたの民をお救いください……」
断食三日目になると、みな死にそうな顔をしていたが、私もなんとか正気を保つ。
「私が死ななければならないのなら、死にます」
そう宣言すると、もう自分の命など惜しくなくなった。
それにこれから王様に会いに行く予定だが、こんなお願いをしたら、殺される可能性もある。死んでも惜しく無いというのは嘘では無い。今は覚悟を決める時なのだろう。
「星羅、お前だけが我々の希望の星だ」
「ええ。桃哉にいちゃん。にいちゃんはもう断食が終わったので休んでください。私はこれから王様の元へ参ります」
私は桃哉にいちゃんに別れを告げ、王妃として一番良い着物を身につけて、侍女の髪を結い上げて貰う。
目元や口元にも色を乗せ、最後に頭にはかんざしもさす。星のように光る飾りは、動くとシャラ、シャラと儚い音を響かせた。
「では、王様の元へ」
その私の表情は殺気だっていたのだろうか。侍女達や宦官は驚き、目を見開いていたが、王様の玉座の前につき、ひれ伏す。
「やあ、星羅ではないか。こんな昼間に何の用か」
本来なら王様は仕事中だ。無礼を働いている自覚はあり、ここで殺されてもおかしくない。私の心臓は嫌な音をたてていた。
「王様……。実はお願い事があります。もし王様のお心にかないますなら、もし特別なご配慮をいただき、私の望みを叶え、私の願いをお聞き入れてくださるのなら……」
「いや、というか今日の星羅はやけに可愛いな。そうだ。また宴会をしよう。今日は予定がなかったが、いいよな?」
誰も王様に逆らえものなどいない。
再び宴会が開かれ、王様は酒を飲み、上機嫌だ。
油断はできない。会場には浜野もいた。もう五十近い老人で、片目は眼帯をしていたが、心根の悪さは隠せず、口元が歪んでいる。それに侍女達の尻や胸を触り、見ていられないが、ここは桃哉にいちゃんに任せておこう。
「ああ、星羅。今夜も可愛いね」
「光栄です、王様」
王様は酒を飲み、上機嫌だ。
「星羅、もしお前が望むのなら、国の半分でもあげよう。他の宝石やかんざし、財宝、金、銀、楽器も何でもあげるぞ」
「いえ、王様」
今はその全てに魅力を感じない。
私は心の中で祈った。どうか、神様の民をお救いください。それ以外は要りません。
「私、私の願いは……」
「なんだい? 星羅。はっきりと言いなさい」
「ええ、王様ありがとうございます。もし特別なご配慮をいただき、私の望みを叶え、願いを聞いていただけますなら……」
ここで私は息を吸いこみ、浜野を少し見て声を出す。
「私の望みは、私達の『神の民』の命が救われる事です!」
想像以上にはっきりと大きな声が出てしまう。周囲はどよめくが、王様だけが冷静だった。
「ま、まさか。誰がお前の命を?」
王様は少し口元が笑っていた。もしかしたら、私のこの発言も楽しんでいるかもしれない。
「この悪人、浜野です!」
私はさらに大きな声を出し、浜野を指差す。
「王妃様も『神の民』か!? 違うんだ! 知らなかったんだよ! 助けてくれよ、王妃様ぁ!」
浜野は大騒ぎし、私に命乞いをする為近づいてくるぐらい。王様は冷静だった。庇うように私の前に立つと、静かに怒りを見せた。王様の目は冷たく、いつもの優しさや寛容さは全て消え、浜野に対して汚物のような視線を向けて言う。
「浜野、お前など死刑だ! 私の後宮で星羅に指一本でも触れたら絶対に許さない」
王様の言葉は絶対だった。誰も逆らえない。その後、浜野も木にかけられて殺された。その木は元々浜野が桃哉にいちゃんを殺す為に作られたものだが、自業自得。墓穴を自ら掘ったんだ。
また浜野の家族や親類も厳しい監視がつけられ幽閉された。浜野は自分の親戚の娘達を後宮に送り込む計画もしていたらしいが、その全てが白紙となり、今日も王様からの寵愛が続いている。
「さあ、星羅。お前が望むなら国の半分もあげよう」
「王様……。ありがとうございます。でも、私はそんなものはどうでもいいんです。他にもっと大切なものがありますわ」
王様の提案に私は頷かない。神様に祈りが届き、「神の民」が救われた事が一番嬉しかったから。
結局、桃哉にいちゃんの正体も王様に告白し、私の秘密は全てなくなった。桃哉にいちゃんは浜野の後釜となり、「神の民」が殺される事は二度となくなったが、代わりに機織り、建築、歌、踊り、それに桃哉にいちゃんが研究している薬草の技術も後宮に伝えられ、ますます国は豊かになっていった。
後日、私は孤児から「神の民」を救った王妃様とし、物語も編纂された。後に下剋上物語とし、多くの民から支持を集めた事は、この時の私は知る由もなく、神様だけが全部知っていた。
「王様、見てください。あの星が綺麗に輝いています」
王様の寝室の窓からは、月よりも眩しい星が見えた。
「ああ、綺麗な星だ。愛する君と一緒に見るともっと美しく見える」
王様はそう呟き、優しく微笑んでいた。
ご覧いただきありがとうございます。短いですが完結です。本作は旧約聖書のエステル記からの二次創作です。女性向けの後宮ラノベっぽい味付けを目指してみました。一応本作の舞台は和風と中華が混ざった架空の国です(和風成分多めな古代アジアン国なイメージ)。




