第三話 寵愛から使命へ
「あはは、星羅。君は本当に可愛い」
王様のお妃になって半年がたった。今晩も王様が宴会を開き、星羅もその隣にいた。
酒を呑み酔った王様は気が大きい。人前でも大声で甘いことを囁く。
「恥ずかしいです、王様」
「いや、私は本当に君が可愛いと思う」
王様は目尻を下げ、酒を飲む。仕事中は王様としてキリっとしている王様だが、宴会中や私の前では全くそんな事はない。意外な事に王様は宴会好きだった。中身は普通の青年と大差ないのかもしれない。
「星羅は可愛い」
王様は目尻を下げてまた囁くが。
こんな調子なので、王様は後宮に私以外の妃は一人も入れていない。
正直、豪華な後宮の部屋も、着物も食事も半年たっても落ち着かない。もちろん、王様の寝室などもっと落ち着かないが。
「王様。僭越ながら質問してよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「一体私のどこを気に入ったのでしょう?」
元を辿れば孤児の巫女だったので、分からない。それに「神の民」である事も黙っていた。一緒に後宮入りした桃哉にいちゃんの命令でもあった。確かにそれが王様に分かったら、大問題。王様はともかく後宮は「神の民」が嫌いな人達がいっぱいいるらしい。
後宮では「神の民」が高い技術を使い、陽翔国の民を奴隷として虐げたり、世界を操っている闇の民族という陰謀説もよく流されているから。
もちろん、荒唐無稽な噂だったが、一度流れた噂は消すのが難しい。特に浜野という王様の右腕は「神の民」をかなり毛嫌いしているらしい。桃哉にいちゃんは女装して侍女を演じながら、後宮の噂も収集し、常に私に報告してくれていたから浜野の事も全部知っていた。
「そう、その謙虚なところが素晴らしい。それでいて大きな目は、星のように輝いているから」
「そ、そうですか? あまり自分では分からないのですが」
「星羅が願うなら、この国の半分でも与えよう」
「そ、そんな。私は今のままで充分幸せです」
それは本心だった。ここでは何不自由もなく、天国のようだ。綺麗な衣を着られ、ご馳走も美味しく、後宮の宦官や侍女達も優しい。何より王様も。私が困るほど優しく、なんでもあげると言うから、いつも断るのに悩んでしまう。贅沢な悩みだが、まだまだ後宮生活に慣れなかった。
しかし翌日。私の運命はまた変わっていた。
女装した桃哉にいちゃんが慌てて私の部屋に入ってきた。元々は三十代の男性という事が信じられないぐらい侍女の衣が板につき、声も高く演じていたが。
「星羅大変だ!」
「え?」
「王の右腕の浜野を怒らせてしまった」
「え、浜野さんを? 怒らせたってなんで?」
桃哉にいちゃんに詳しく話を聞くと、「神の民」の酷い噂を鵜呑みにする浜野に反論したという。これに浜野は大激怒し、「この国にいる神の民を全員殺す!」と騒ぎ、実際、そんな法律を通してしまったという。
「そんな、どうすれば……」
「ここは星羅。お前しかいない」
「私?」
「王様に頼むんだ」
この時は桃哉にいちゃんの声は普通に低くなっていたが。
「そんなの無理だけど……」
もう祈るしかなかった。ご先祖様が残してくれたお祈りの仕方を思い出し、私は立ち上がった。




