第一話 憂鬱な王様
陽翔国・第十七代の王は途方に暮れていた。
「よりによって……」
王には紅蓮姫という妃がいたが、よりによって宦官の一人と浮気をし駆け落ちしてしまった。紅蓮姫は無礼な態度も多く、浪費もすごかった。高貴な身分の女だったはずだが、楽器も下手で教養も低く、人は見かけによらないのか。
子供がいなかったのは幸いだが、それはそれで問題がある。王として世継ぎを作る責任もあり、祖父の代は広い後宮にたくさんの女がいた。それが王としての「仕事」だと割り切ってはいたが、王はまだ中身は二十歳になったばかりの若造でもある。南北に広がるこの島国を治める王ではあるが、中身は一般の男と大差ないかもしれない。その証拠に今回の妃の裏切りに胸が苦しい。ため息をつき、途方に暮れる。
今も紅蓮姫の濃い化粧やきつい香の匂いを思い出すと、王の眉間に皺がよる。
鼻や口元も彫刻のように整い、王としての気品もある。今は寝室で簡単な寝巻き姿であったが、長く、艶のある黒髪もさほど乱れず、指先にも力が入ってしまう。
後宮には王の命を狙うものも絶えず、寝室でも気が休まらない。部屋の外とはいえ、常に宦官がいる環境は、どこか心を荒ませた。広く豪勢な後宮だが、時々檻の中なのかと錯覚しそう。
王は窓の外を見上げた。今日は月は見えないが、夜空に輝く星に気づく。
この星のように自分の心を照らす存在がいれば救われるのだが……。
再びため息をつき、新しい妃選びについて思いを巡らす。もう見た目だけの女はこりごりだ。だとしたら、神に仕える巫女の中だったら、星のように輝く女もいるかもしれないか?
「そうか、妃は巫女の中から選ばせよう」
こうして新しい妃選びが始まった。