たまご
ある村で一人の農夫が鶏を育てていた。農夫は毎日、鶏たちの世話をし、卵を集めて市場で売っていた。ある日、農夫は鶏小屋の片隅にひときわ目立つたまごを見つけた。大きさも形も色も、他の卵と変わらないが、そのたまごだけ何かが違って見えた。
農夫はそのたまごを慎重に持ち帰り、特別なかごに入れて温めた。数週間が経つと、そのたまごから小さな鳴き声が聞こえ始めた。農夫は興奮してたまごを見守り、ついにヒヨコが殻を破って現れた。
しかし、このヒヨコは普通のヒヨコとは少し違っていた。体格も色も他のヒヨコと変わらないが、そのヒヨコだけ何かが違って見えた。農夫は、そのヒヨコに名前をつけて大切に育てた。ヒヨコはすくすくと成長し、美しい雌鶏となった。
ある夜、農夫が鶏小屋に戻ると、中は荒れており、例の雌鶏が姿を消していた。農夫は必死に探し回ったが、雌鶏の姿はどこにも見当たらなかった。悲しみに暮れる農夫は、あの雌鶏が戻ってくることを祈り続けた。
数日後、農夫は村の外れで例の雌鶏の羽を見つけたが、雌鶏自身は見つからなかった。雌鶏は何者かに捕らえられたのだろうと、農夫は心に大きな悲しみを抱えた。
その後、農夫は再び普通の鶏たちと暮らしたが、あの雌鶏のことを思い出すたびに、胸に痛みが走った。
ある晩、農夫は物音で目を覚ました。家の中に響く微かな鳴き声、農夫は胸騒ぎを覚えながら音のする方へ向かった。台所にたどり着くと、何かが農夫の顔面目がけてばたばたと飛び込んできた。農夫は水洗い場にあった包丁を手に取り、奇妙な生き物を振り払うように振り回した。
ようやく落ち着くと、農夫は台所の明かりをつけた。
農夫の足元には、目を惹くような卵が転がっていた。