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14話 一緒に勉強

 翌日の火曜日。四時間目までルーティンの如く授業をこなしてお昼休みになった。この時間に、一階の図書室で教えて貰うことになっていた。

 数学の教科書とノート、ワークを手に抱えて階段を降り、左向きを変えて数歩進めば昇降口があって、その前に左右に廊下が伸びている。図書室は左の奥にあり、近づくに連れて人気が無くなっていく。

 少し開けづらいドアをスライドして中に入る。本に囲まれたこの場所には人がぽつぽつとしかいなくて、ドアの近くのカウンターにいる図書委員の男子生徒は暇そうにしていた。

 図書室の奥には、ほとんど人が利用しない勉強スペースの長机がある。位置としては、ドアからそのまま直進した所とドアとは反対の窓際の二箇所。窓際の方面へと足を運ぶと水無月くんがすでに一番奥の席で座って本を読んでいた。一瞬、一つ開けて座ろうとしようと思ったのだけど、それだとやりづらいと思い、隣に腰を下ろした。


「水無月くんよろしくね」


 そう声をかけるとパタンと本を閉じて私に向き直る。


「ああ。数学だったか?」

「うん。てか、宿題やり忘れちゃってさ。六時間目に数学があるんだけど、今日黒板に答えを書く順番だから、教えて欲しいなって」

「あれ、昨日思い出してたよな?」


 自分でも何をしているんだと思っています、はい。


「てへ」

「……やろうか」


「ごめんなさい」

 教科書を開いて該当の箇所までページをめくる。同い年の男の子にこんな至近距離で教えてもらうなんて。紙の擦れる音とか、水無月くんの息遣いとか、細かな音に敏感になってしまう。


「ここが、こうなって」

「ふんふん」


 水無月くんは懇切丁寧に教えてくれる。何度もわからないと伝えても、面倒くさそうにしなくて、寄り添ってくれた。


「確かにそこはむずいけど、この公式さえ覚えれば出来る」

「それが何かうーってなるんだよねー」

「まぁそこは何とか我慢してもらって」


 めちゃめちゃを言っても怒らないで受けて止めてくれて。そこで勉強のストレスが解消されて、一人よりも百倍は楽しく筆が進む。勉強をしていてこんな感情になるのは、とても新鮮だった。

 ただ唯一気になる点は他の人の視線。声を潜めても周囲に漏れ聞こえているし、しかも隠れファンもいる水無月くんと仲良くお勉強。悪目立ちしていないか不安になる。


「出来たー。もう疲れた帰りたい」

「いや、帰ったらやった意味なくなるだろ」


 冗談に突っ込んでもらえた。嬉しい。


「だよね。せっかくだし頑張りますかー、五時間目まで」

「そこで燃え尽きるなし」

「えへへ」


 そんな会話をしている中、時計を見上げるともう残り五分ぐらいになっていた。勉強に夢中なんていつぶりだろうか。初めてかもしれない。


「そろそろ戻ろっか」

「そうだな」


 そう言って、勉強道具を片して図書室を出る。そこから並んで歩いて、二階まで軽く雑談しながら歩いた。


「じゃあな」

「うん。今日はありがと」


 別れて教室に戻り席に座ると、綾音ちゃんが隣の人の席に座った。


「機嫌良さそうね」

「そうかなー」

「顔に出過ぎよ」


 口元に力を入れるのだけど、すぐに緩んじゃう。


「水無月くんとは上手くいっているみたいね」

「あはは、その言い方付き合ってるみたいじゃん。でも、綾音ちゃんのおかげで、仲良くなれてる」

「それは良かったわ。けれど、少し気をつけたほうがいいかもね」


 顔を近づけて口横に手を当てて、周りに聞こえないようにして。


「変な嫉妬とか噂とかあるかもだから」

「で、でもそんなことあるかな」


 そういう妄想は良くしたものだけど、リアルでも起きるのだろうか。


「密かな人気があるからね。ま、そういう可能性もあるってことよ」

「も、もうー。怖がらせないでよ」

「ごめんなさいね、少し心配性だから」


 流石に大丈夫だよね。笑い飛ばしたいのだけど、そうもいかなくて。

 一抹の不安を残して、昼休みが終わりを告げる。

 窓の外は灰色の雲が空を覆って薄暗くて、今にも雨が降りそうだった。

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