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神様ネット~狂乱の神の場合~

作者: 海蛇

 ここは全てが狂ったカオスの境地。

狂乱の神(仮面の紳士風)が支配する領域である。

今回の神様ネットは、この狂乱の神が返信する番であった。


「はい狂乱の神です。本日は私が真面目に……真面目に、ぷっ、くく……真面目にだってよ! 俺が真面目にだって! そんな事するわけないじゃないか!!」


 狂乱の神は毎度こんな感じである。

毎度毎度真面目なお便りや普段の凶行を諫めるようなお便りが届くが、エキセントリックな返しによってギャグめいた結末に替えてしまう。

この為、喜劇作家やコメディアン、ギャグマンガ家などに崇拝されるカオスサイドの急先鋒な神様であった。


「そんじゃ最初のお便り流しちゃうよーん、最初のお便りはペンネーム:黒騎士ゴディバ……いいや、お前実名でいいよな? 実名:マティアス・アンダーソン(男・35歳・聖騎士)! 聖騎士だってよ聖騎士!! 黒騎士ゴディバを名乗る聖騎士のマティアスさーん! 聞こえてますかー!! これからお前のお便りをお前の世界にばらまいちゃうからなー!!」


 狂乱の神は時たまこのような事をする。

今回もまた、哀れなマティアス(聖騎士)の実名が彼の世界にアナウンスされた。


『狂乱の神よ初めてお目にかかります。実は私は対立している国の姫君と恋仲になってしまい』

「ははは、道ならぬ恋の恋愛相談かよ。可哀想になあ、今露呈しちゃったよ」

『この度貴方を利用して両国の和平の為、愛を叫ばせていただくことにしました。エスメラルダ姫、愛しています! 共に平和を!!』

「へっ?」


 狂乱の神は時々利用される。


「なっ、なっ……なーんてなっ! お前のしようとする事なんてお見通しだよ! 俺を利用しようとする奴が今までいなかったとでも思ったか? 知ってたよ、知ってましたよ、解ってたもんねー!!」


 狂乱の神は時々目論見が外れて発狂する。


「おらおらおらぁ! 幸せになろうとするカップルとその国には狂乱の神様からパニックの嵐をプレゼントだ!! 二億匹のイナゴの群れでも味わえ―!!」


 狂乱の神は時々人類に試練を課す。

主にイナゴの群れが襲い掛かったり大量の軽石が海岸に届いたり箪笥の角に足の指をぶつけたりするのだ。


「ふふん、ざまあみろだ。お幸せになぁ!!」


※尚今回のイナゴは目的地に達すると花やお菓子に変化する特殊仕様です。



「さーて次のお便りだぜ。でも今回は実名はなしで! ペンネームも読んでやらん!!」


 狂乱の神は同じことをするのも好きではない。


『初めまして狂乱の神様、私は貴方を崇拝するカオス教徒の僧兵なのですが』

「ほほう、俺の信奉者か珍しいな! なんたって俺を信じた奴は身を破滅させたエキセントリックな奴ばかりだからなぁ!」


 彼の信奉者は彼の言う教えを忠実に守った結果身を持ち崩す人が後を絶たない。


『神様の教えに従い、この度5000人の男とまぐわうという目標を達成することができました! 褒めて!!』

「えっ、マジであれやったの!? お前大丈夫か?」


※頭の方がという意味です。


「あんな適当な教え真面目に実行するとかお前カオス信仰者向かないよ。真面目に生きた方がいいよ。もっとロックに『あんたの言う事なんて信じられねえよバーカ!』くらい言う方がだな――」

『なーんて嘘ぴょーん、あんたの教えなんて聞くはずないでしょこのクソ狂乱! 死ね!!』

「……」


 まさかの罵倒である。

これには狂乱の神も知識の神がゴリラパンチを喰らったかのような顔になっていた。


「……すばらしい」


 そして感嘆の吐息をついていた。

目の端には涙も流れている。


「かつてこれほどまでに、カオスを体現したお便りがあっただろうか……」


※狂乱の神への罵倒は彼にとってご褒美です。


「ぐふぅ……っ、最近は妙にインテリぶって、『何か崇高なお考えを持ってるに違いない』とか『世界にカオスをばらまくことで均衡を保とうとしてるんだ』とか言い出す奴がいる中で……こんな、こんな純粋な……っ」


 狂乱の神は、最近のお便りの傾向に不満を持っていた。

もっと狂い果てたものが見たかったのである。

呆れるほどにバカバカしいものが見たかったのだ。


「いいものを見せてもらったぜ……褒美としてお前のペンネーム読んでやろう。どれどれ……ペンネーム:神聖教徒(25歳・女・主婦)。敵対勢力かよ!! ちくしょう感動を返せ! メテオストーム!!」


 納得の罵倒であった。

狂乱の神は大量の隕石を神聖教徒の住む地域に落とした。


※彼の落とした隕石は大変貴重な鉱石を含んでいます。




「うーむ、どうにも調子が出ねえなあ。もっと狂い果てた内容とかないのかよ。『エンジンルームから大量のキドニーパイが!?』とかさー」


 いくつかのお便りを読んだ末、(彼的に)まともなお便りがない事に大層不満な様子で、狂乱の神は全裸になった。

困った時には全裸である。

そんな折、彼が尻に敷こうとした箱の中にコトリ、一通のお便りが届く。


「おっ、なんか届いた。でもなーこのまま箱を便器代わりにしたいと思ってたんだよなあ。お便りよりもうんこの方が大事じゃねえ?」


 神様は排泄などしないが狂乱の神は必要とあらばすることもある。

勿論意味などない。


「まあいいか。前にそれやって大地の女神に殺されかけたしな。どうも昔からあの女には勝てねえんだよなあ。あいつ味方多いし」


 過去に多くの世界を巻き込んだゴッド・ウォーを引き起こした経験から、彼は苦虫をかみつぶしたように手紙を取り出した。


「えーと何々……ペンネーム:3ybhq@ed)4h@y(35000xe・;r@)。あー、なんか俺たちの理解できない言語が混ざってるなあ。翻訳翻訳っと」


 様々な世界があるので時々表記がバグる事もある。

知識の神経由で自動翻訳されるので特に問題もないのだが。


『お便りした。私は。狂乱の神。初めまして、機械生命体の世界から』

「ぷぷっ、機械言語で書かれてやがんの。めっちゃ無理やりな翻訳になってる」


 たまにある面白お便りの部類であると解り、狂乱の神は笑い飛ばすつもりで読み進める。


『私は、です。貴方達神々が存在する。解らない』

「ほほう、これはアレか? 機械生命体が神々に宣戦布告するとかそういうアレな展開か? くくくっ、面白いじゃねえか。狂乱の神様が神様軍の先鋒として戦っちゃうよ?」


 狂乱の神様は、面白くなるなら戦争もありな人だった。


『このため、やりたいです。私達。貴方達と戦い』

「くくく、やはり宣戦布告じゃねえか! いいぞ、いいぞこれは! 実に面白くなってきた!! 近隣の神々全てに同時にお伝えしてやるぜぇ! 神々と機械生命体の戦いの始まりだぁぁぁぁ!!」


 早速近くに住んでる神々にも聞こえる様に同時放映である。

これで戦争が止められないものになるはず、と口元をにやつかせながら手紙の先を見る。

最後まで読んだ上で「貴様の意図はよく解ったぞ」と、その機械生命体の世界に狂乱の嵐を巻き起こす予定であった。


『我々の戦い、それは』

「おおそうだ。お前らにとっての闘争、お前にとっての戦いとはどんなものだ! 宇宙核戦争か? どっちが太陽を破壊するかのサン・ブレイク・ウォーか? 最近はやりの惑星ごとぶつけあうビリヤード・ウォーか? それとも世界そのものを書き換える概念戦争になるか! 何でもありだぞ、何でもこい!!」

『運動会である』

「はへっ?」

『運動会である』


 大事な事なので二度書かれていた。


「運動会……?」

『我々。解読し。解析した。かつては有機物種の生息の痕跡を、かつて有機生命体が、おのれの身体能力を競い合う戦いをしていたと』

「え、えーっと……?」

『戦う。我々の為に。概念戦争や次元破壊抗争を是としていた。この平和的な思想に感銘。我らが。同胞。いくつもの宇宙に住まう、この戦いを各々のイデオロギーのつばぜり合いの場として選んでいる』

「どうせならその次元破壊抗争の方しようよ!?」


 狂乱の神、がっかりである。


《もしもし狂乱くーん? 機械生命体の人たちと運動会開きたいのー?》

《がはははっ、面白いことを提案しやがるな狂乱よ。見直したぞ!》

《ならば我ら体育の神十一神が審判として見届けてやろうではないか!!》

そして折悪く同時放映されていた他の神からの返答がきてしまう。

「あっ、いや違っ、お前ら違うからっ」

《えっ、違うの?》

《おいおい大地の女神よ騙されるな。狂乱の言う『No』は俺らで言う『Yes』だ》

「いやほんとにっ」

《あっ、それもそうねー。それじゃ(わたくし)は夫(女性)と子供を連れて見に行くわね》

《吾輩も見に行ってやるぞ。頑張れ狂乱》

《不正は許さぬからな。真面目にやるのだぞ》

「えっ、あっ、ちょっ――」


 気が付けば断り切れない雰囲気になっていた。

いや、そうする為に同時公開にしたのだ。自業自得である。


「や……やってやるぜぇぇぇぇぇぇ!! この狂乱の神がなぁぁぁ!!」


 彼はやるしかなかった。



「はあ、はあ……なんてこった。この狂乱の神が、機械生命体如きに乗せられてしまうなんて」


※乗ったのは彼自身です。


「くそっ、今日はもうこれが最後だ! もうどんなのでもいいから狂わせてやる!!」


 まだ日が高かったが、彼はもうやる気をなくしていた。

疲れたのだ。疲れると狂気度も下がる。

狂人も大変なのだ。


「どれどれ。ペンネーム:変態皇帝ネロ(2523歳・竜・皇帝)……竜って性別だったか!?」


 そのぶっ飛んだネームセンスもだが、性別が竜になっているのは中々に狂っていた。


『余はつい先日、この世界に住まう四匹の古代竜を撃破せしめ、その血肉を喰らい竜となれたのだが』

「マジかよ、古代竜ってあれだろ? 昔神々とドラゴンズ・ウォー起こして熾烈な覇権争いして敗れたかつての支配者たちのペットだろ? めちゃつよの」


 狂乱の神は歴史に詳しかった。


『息がとても臭くて困っている』

「あいつらの肉臭いもんなあ」


 狂乱の神は古代竜の臭みを知っていた。


『まさかすぐに収まると思ったらずっと臭いとは思わなかった。この息の臭さの所為で余は畏怖されるというよりも単に汚いものを見るような目で見られ、子孫たちからも「くさいから寄らないでください」と言われショックを受けてしまった』

「臭いのはちょっとなあ」


 あらゆる狂乱の中でも臭いのは最も嫌われる類の狂気である。


『何故だ、竜と言えば「格好いい!」と言われるものの代名詞ではないか!? 神になるのも無理で竜になったらこれで、余はどうすればいい!? 女に戻れば大満足か!? 実際女の時はちやほやされたぞ!!』

「竜の神にでもなっちまえよ。そして狂った世界に変えちまおうぜユー!」


 だが待っているのは臭い世界である。


『それはそうと最近余は料理に凝っているのだが』

「あっ話まだ続くんだ……」


 ただの枕であった。


『余の作った料理を食べた者達が次々に発狂しだして困っている』

「なに何の脈絡もなく狂乱の嵐巻き起こしてるんだよお前!? トリックスターか!? 何か問題起こさなきゃいけない病にでもかかってるのか!?」


 メシマズは世界を狂わせる為危険である。


「くそっ、なんてことだっ、俺が突っ込みに回っちまうなんて意味が解らねえ!」


 しかも話はそこで終わってるので純然たるお悩み相談である。

狂乱の神は顔を覆った。


「――くそっ、このストレスは何かで解消しねえと……はっ、そうだ、スポーツ、スポーツで身体を動かせば――!」


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