姉妹格差と婚約者の浮気の真相
真実の愛ではない理由で婚約者変更を頼むと言うイメージでしたが……、あれ?
レイジョ・ダンシャークは私の婚約者であるオージー第一王子に侍りました。一体何時の間に近付いたのか分かりません。私は彼女にもオージー様にも忠言致しましたが、聞き入れては貰えませんでした。
彼女はどう言う訳か、社交界の花と謳われる王妹様の娘であるヒーキ・リンコク様と親しく、従って彼女に対して「身の程知らず」と眉を顰める方もおりません。それ処か……、
「まあ、何て見窄らしい。」
「とても殿下の婚約者とも思えませんわね。」
「お美しいヒーキ様がお相手なら仕方ありませんが、下位貴族のレイジョ様にも劣るのは恥でしかありませんわね。」
「本当に。殿下がレイジョ様をお選びになるの、良く分かりますわ。」
皆、私を蔑むばかりで……。私だって身分に相応しい装いはしております。ですが時流に相応しく、且つ自身に似合うものかと言われれば……。
高位貴族令嬢ならば、況してや王族に嫁ぐ身ならば、高品質〜最高品質で歴史あるものを身に纏う事は最低限の事で……、それを現在に合わせ、自身に合わせる必要があります。最低限の事しか出来ない私は嘲笑の的……、何れ社交界を引っ張って行かねばならない立場ですが、自派閥処か友人関係も上手く作れないのです。
私がこの様な状況に居るのは、お父様とお母様、そして妹が大きく関わっております。私はハッキリ言えば、冷遇された側の娘です。どうやら私は先代夫人……、つまりはお祖母様に似た様で、お父様もお母様もお祖母様を嫌っており、私を通してお祖母様を見ている様でした。
しかし妹は両親に似て、更には美人です。両親は妹にデロデロでとても可愛がっております。我が家には男児がおらず、婿を取って家を継がせる事になりますが、妹可愛さに両親は「ず〜っと家に居れば良い」と妹を跡継ぎに決めてしまいました。
同時期に殿下の婚約者として、我が家には打診があり、私が選ばれました。幾つかの候補から我が家が選ばれたのは政治的な理由が大きく関わっております。
当時、国政は内政派と外交派で揺れておりまして、外交をしっかりとする方が国の為と仰る意見が強くなり過ぎて、それを押さえる為に内政派の中で権力が強く、且つ年回りが丁度良い娘が居る我が家が選ばれたのです。
尚、外交派が強くなり過ぎたのは筆頭が王妹様が嫁がれたリンコク家である事が大きいので、そちらの令嬢であるヒーキ様と仲が良いレイジョ様が殿下に侍っている、と言うのは余り良い予感がしませんが……。
しかし私に打てる手は有りませんでした。と言うのも国王陛下や王妃殿下は私ではなく、妹に嫁いで欲しいとお考えの様で……、私の意見等、無きに等しいものだったのです。
そしてその時が来ました。私は卒業式と言う晴れ舞台で断罪されたのです。やっても居ない罪を着せられて。
私の無罪は私が良く分かっております。されどそれを証明する術は有りません。レイジョ様の後ろにはリンコク家があり、家の力等使えない私にはどうしようもありません。そしてそれを殿下方に利用されたのです。
「家の力を使えたのなら、即排除しただろう。だが君にはそれを使えない。だから下らない嫌がらせしか出来なかったんだろう。それが幸いだったとは思うが。」
レイジョ様が殿下に侍っていたのは、嫌がらせから避難する為で、ヒーキ様が親しくしていたのも、私の代わりに彼女を守る為であったと言われました。
本来は次期王妃である私が下らない虐めを防ぐ事で、その影響力を示すべきではありましたが、虐めの事実でさえ知らぬ私はそれを出来ず……、それを良い事に罪を着せられたのでしょう。
「お前のせいで!! どうしてくれるっ!!」
「王家に睨まれた我が家は終わりだわ!! あの子まで婚約も破棄されたのよ!? この疫病神!!」
「あの子は酷く落ち込んで、修道院へ行ってしまった!! 幸せになれる筈だったのに!!」
私は両親に責められ続けました。妹が出て行ってしまったので、取り潰しは何とか避けられた我が家は私が継ぐ事になります。ですが……、果たして我が家と縁を持って下さる方が居るでしょうか……。
お姉様ったらまだ家にしがみついているのかしら。折角温情を頂けたのだから、さっさと修道院に入れば宜しいのに……。
確かにお姉様は被害者です。元凶はどうしようもない両親でしょう。お祖母様がどの様なお人であったかは存じませんが、息子の躾も嫁の教育も出来なかった人であるのは間違いなく、私とお姉様はその歪みをまともに受けてしまったのですから。
……王家は外交派と内政派に揺れ、陛下は内政派を取りました。だからこそ我が家の令嬢がオージ殿下の婚約者に選ばれたのです。当然、家の持つ力を重要視されたでしょう。
しかし……、私と格差を付け、冷遇しているお姉様を王家に嫁入りさせる……、王家は我が家を疑ったのです。果たして何れ王妃になるお姉様の後ろ盾として振る舞う意志があるのか、を。
元々子供に愛着を持たず、政略の駒としか考えていないならば、逆に王家は信用したでしょう。その場合、政略に使える様に、人から嘲笑われる様な隙を令嬢本人だけでなく、家そのもので見せない様にするものですから。その様な家ならば婚姻は切っ掛け、託された役割はきちんと果たすと判断された筈です。
しかし次期王妃である王太子妃になる身としては見窄らしい姿に、王家は我が家を内政派の肝として当てに出来ないと考え出した……、故に明らかに大切にされている側の私を、王家は求めたのです。
勿論、その前に私が王太子妃になって問題が無いかの調査はされたかと思います。もし私がその調査で落とされていたら、この様な申し出は無かったでしょう。
お父様達は王家からの申し出に、その意味を理解しないまま、私可愛さにけんもほろろに断ってしまった……。私が気付いた事実を上手く伝えていれば変わったかもしれません。しかし私もまた、その辺りが上手く出来なかったのです。
せめてお姉様に伝える事が出来れば……。
そう思う事もあります。しかし私達は両親に依って、常に邪魔されているのも同然で、絆を持つ事が敵いませんでしたから……、その件でも私は動けませんでした。
ですから開き直る事にしたのです。
私には婚約者が居ましたが……、彼の一家は王家と我が家の遣り取りには気付いておられましたので、このまま完全に信用を失って、お姉様の婚約は解消されてしまえば、我が家と結び付く旨味はなく、また逆に我が家が信用を喪わずに済んだ場合、お姉様から私への婚約者変更となり、どちらにせよ、私とは結ばれないだろうと期間限定の仲でした。
そんな中でレイジョ様は現れたのです。外交派のトップと言えるリンコク家を後ろ盾に持つ男爵令嬢が。
……私は悟りました。陛下は外交派へと政治の舵を切らんとしていると……。殿下も陛下も我が家がどう動くか見ていたのでしょう。お姉様の為にその力を奮うか否かを……。
そして結果は出ました。
お父様達は何もしなかった。我が家は完全に見放されたのです。下らない嫌がらせでの断罪だったのは、罪を犯した訳ではないお姉様を必要以上に罰しない為の温情……、それは王妃教育を受けている(それが大変で、周囲の嘲笑から情報を読み取る余裕も無かった様です)お姉様は、毒杯を賜っても可笑しくないのに、そうはならなかった事からも分かります。
何にせよ……、我が家には未来が有りません。陛下が完全に外交派と政治の舵を取るならば、殿下の新たな婚約者はヒーキ様か、或いは他国の王女に決まるでしょう。愚かな振る舞いで王家に見放され、派閥争いに敗北し、自派閥の貴族家からもそっぽを向かれるのです。その様な家、継ぎたくもありません。
ですから前もって準備をし……、私は無事に修道院に入ったのです。お姉様もそうすべきと思うのですが……。
まあ、決めるのはお姉様ですよね。
例え長年の生活で考える術を無くしているのだとしても、私にはそんなお姉様を救える様な術は無いので……、この様に割り切って生活しているのです。
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