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 結婚式が早まる事になった。


 薬草を植えた場所の近くでお茶をしませんかとガーデンテーブルと椅子を用意してアルバード様は書類仕事の休憩。自分は薬草の世話の休憩をとる。

 ちなみに本当なら対面で休憩だと思うのに隣に椅子が並んでいる状態で腰を下ろしている。


 ずっとしゃがんで辛くないですかと聞かれて、そんな事ないですよと話をしていた矢先に切り出された。


「本当はカティアさんが俺を好きになってからにしたかったんだけど、一刻も早くカティアさんを俺のものにしたくて……」

 と顔を赤らめて謝ってくるアルバード様。


「それに、久しぶりに両親が会いに来るんですが、愛が重い家族なのでカティアさんを独り占めできる時間が減るのは……」

 だからさっさと結婚式を行って蜜月を味わいたい。

 と、どこか真剣な眼差しで告げられる。


「うっ……!!」

 その表情にノックアウトされ掛かってしまう。

 もう落とされている気がするが、それを認めたらなんてちょろい女なのだろうかと言われそうで言えない。いや、聖女候補時代の影響で免疫がなかっただけかもしれない。


 と、そこまで考えて、親友のレティシアはいろんな男性に告白されていたなと思い出す。聖女候補だからと断っていたが、贈り物には罪はないと大事にしていた。


 それくらいの余裕があれば対応できたかもしれないが、慣れていないからどうすればいいのか分からずにされるがままになってしまった。


「で、その準備で忙しくなるのですが、そのお詫びに何かできる事ないでしょうか」

「い。いえっ⁉ もう充分ですからっ!!」

 これ以上何をさせられるのかと警戒してしまうと。


「夫婦になるのですから遠慮しないでください」

 とこちらが警戒しているのを気付いていないのか。気づいていて警戒をほどこうとしているのかそんな声を掛けられる。


「ふっ……」

 夫婦と言われてかぁぁぁぁぁぁぁと顔が赤くなる。そして、それは言った本人も自分の発言に顔を赤らめる。


「だっ……」

 赤らんだ顔を隠しながらアルバード様が口を開く。


「駄目ですね………こんなことで恥ずかしがっていたら結婚した後がもっと大変になるのに」

 心臓が持たないかも。


「そっ……ソウデスネ……」

 激しく同意だ。


「本当は……」

「はい」

「本当は、カティアさんに領内を案内してからにしたかったけどね」

 きちんと自分のものだと示してから連れて行きたくなったんだと言われてから。


「あっ、すっ、すまない……俺のものだなんて図々しい……」

 恥ずかしいと顔を隠してしまう様につい笑ってしまう。


「カティアさん……」

「じゃ、じゃあ、アルバード様も私のものですね」

 と言ってから。アルバード様がこちらをまじまじと凝視してくるのに気づいて。


「すっ、すみませんっ!!」

 なんて烏滸がましい事を言ってしまったんだろうと恥ずかしくて逃げだしたくなる。


 だけど。


 がしっ

 腕を掴まれたと思ったらあっという間に腕の中に閉じ込められる。


「ええ。俺は貴女のものですよ。カティアさん」

 嬉しそうに微笑んでいる。

 

 そんな笑みを浮かべられるとここまで喜んでもらえるかと嬉しいし、恥ずかしい。


 いいんだろうか。

 母が亡くなって教会で聖女候補としての日々を過ごして、治癒魔法が使えるからと父に捨てられるように嫁いできたけど、ヘルマン領での日々は毎日が嬉しい幸せが多くて、こんなに幸せすぎて罰が当たりそうで怖い。


 愛されたいと思っていた。聖女になれば誰からも必要とされて大事に……愛されると思っていたからそんなよこしまな気持ちがあったから神様は治癒能力を弱めて聖女に選ばなかった。


 それなのに、こんな幸せでいいんだろうか。


「カティアさん」

「ひゃいっ!?」

 ずっと考え込んでいたら名前を呼ばれる。


「――幸せになってもいいんですよ」

「えっ?」

 なんで分かったんだろう。


「分かりますよ。顔に書いてありますし、カティアさんならきっとそう思うのではないかなと……」

「…………」

「罰が当たりそうと思っているのなら違いますよ。今まで頑張ってきたご褒美に神様がくれた時間なんですよ」

 それくらい貰っていいと思いますと告げて、じっとこちらを見て微笑む。


「まあ、もっとも」

 一度言葉を切って。


「貴女が神様からご褒美をもらったと思う以上の幸せを与えたいし、今の生活が幸せだと思ってくれるならこれ以上の喜びはないですね」

 とそこまで告げて。


「そんな事を言って。俺の方が幸せになりすぎているのでしょうもないですが。………結婚もジジイのおかげで行えるし、聖女にならなかったから手に入ったと言っても過言ではないので俺は全く努力していないんですよね」

 情けないなと呟く様に、

「じゃ、じゃあ………」

 慰めるために口を開く。


「まだ、アルバード様から告白も求婚もされていないので結婚前に素敵な告白か求婚してください。そしたら………」

 と言いかけた口を塞がれる。


「うん。嬉しいけど、ちょっと待ってね。今言われたらきっときちんと言うべき言葉を言えなくなるから……」

 顔を赤らめて視線を外して告げてくるさまを見て、

「じゃあ、早めにくださいね」

「…………努力します」

 と堅苦しい返事が来る。


 カァカァカァ

 カラスが鳴きながら飛び立つ。


「――でも」

 魔力の流れに違和感を覚える。


「先にしないといけない事ができたようで」

 アルバード様の表情が険しいものに変化していた。


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