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 窓の外から薬草の世話をしている最愛の妻の姿が見える。

「執務室から見えるようにあの場所を薦めたとかじゃないよな」

 元領主である祖父がどこか揶揄うように問い掛けてくる。


「決めたのはカティアさんですよ」

 だから偶然です。にこやかに告げるが、祖父は全く信じていない。まあ、この周辺の利点をしっかり告げていたから。薦めたと言えば薦めたと言えるが。


「………薬草を育てようとした事があったが、失敗していたな」

 魔力が多くある土地柄作物だけではなく薬草を育てたらどうなるか何度も試した事があった。だが、薬草の苗を植えた矢先に枯れていったのだ。


 原因は不明。


 何度も試しているのでこの地は薬草を育てるのに向いていないのだと結論に達したのだ。


「ああ。それですが」

 カティアの願いならなんでも叶えてあげると言ったのは本当。だが、この地が薬草を育てるのに不向きだとは言えなかった。


 悲しませてしまうのは分かっていたのに。だが、

「カティアさんが苗を植える前に根っこを傷付けだしたんです」

「根っこを?」

 そんなことをしたら枯れてしまうのではと聞こうとした祖父に。


「カティアさん曰く、魔力が強すぎて、根腐れに近い現象が起きやすいのだと」

「根腐れ……水をあげすぎると枯れてしまう事だったな」

「ええ。種からならまだ調整ができるので大丈夫ですが、苗の場合はわざと栄養を自身の治癒に使わせて、少しずつこの土地の魔力に慣れさせるとの事です」

 あとわざと雑草を放置したり、間引かないで育てさせて栄養を分散させてじわじわと慣れさせるといいと説明された。


「そうか。薬草は貴重品だからな大事に育てすぎたのが失敗の原因か」

「後、カティアさんは薬草が持っている魔力を調整しています」

 魔力がありすぎると逆効果になるのでと。

 カティアから教わった事をそのまま告げる。


「調整とはそんな事も出来るのか」

「ええ。治癒能力というのはその治癒をする相手の魔力を整えて回復しやすいように促す事だと」

「だから調整は慣れている。か……」

 治癒魔法は詳しくないからそういうものだと言われると普通の魔術とどう違うのか調べてみたいと言い出しかねない祖父を見て本題を切り出す。


「結婚の予定は一週間後にしようと思ってます」

「急だな。気持ちが伴ってからと言っていなかったか?」

 何で急に変更を。


「聖女が公式に出る回数が減っていると報告がありました。候補だった時にはあちらこちらに顔を出していたのに」

 まだ違和感程度。だが、

「早めに結婚しないと危険と言う事か」

 彼女自身が。 


 窓の外では、植えた薬草に向かってしゃがみ込んで話しかけているような動きをしている最愛の人。きっと嬉しそうに笑っているんだろうと想像ができてつい微笑ましくなってしまう。


 ………だからこそ、彼女を害するすべてを排除しないと安心できない。


「何言っているんですか。彼女の気持ちを待ちたい気持ちもあるけど、自分のものにしないと他の男に掠め取られないか心配なんで」

 にっこりと微笑んで告げているが、目は笑っていない。


「少し前なら遠くに行ってしまうのだろうと諦めていられたけど、手元に来てくれたのですから」

 誰にも譲るつもりはない。欲しがる者が居たらどんな手段を使っても破滅に追い込んでやる。


「ああ。そうそう。レイヴン伯爵家からカティアさんは娘でも何でもないと絶縁状が届きましたよ。聖女にならなかった娘など価値がないとばかりに」

「なんだそれは。聖女の方が地位などを考えると強いが、我が家でも結構地位があるのだが」

 意味が分からないと告げる祖父にくすくすと笑って。


「鬼や悪魔と言われている者に嫁がせて、もし何かあったら巻き込まれるのはごめんだと()()()がいたようで」

 意味深に告げる。

 囁いた者。縁を切らせるように手を回した者がどこと繋がっているのか調べなかったと言う事だ。


「ヘルマン家の血はやはり濃いな」

「当然です」

 愛する人を苦しめるだけの存在など排除してもいいだろう。


「なので、あちらから手紙が来ても取り次がないようにと伝達しています。ああ。そうそう。あそこの()()()が最近体調が悪い日が続いているとの事で、全然関係ないのに妹だから治癒をしに来いという謎の手紙が来るかもしれませんので」

 体調の悪い日が続いている。


「何を知っているんだ」

 レイヴン伯爵家で何の情報を持っているのかと聞くが。


「さあ。――何の事でしょうか?」

 と惚ける。


「………カティア嬢に見せられない顔だな」

 悪人顔。まさしく悪魔と言われてもおかしくない表情を浮かべる孫を見て。そんな事を言われるのは心外だ。


「だから見せませんよ」

 カティアさんが逃げたら嫌ですからと告げると祖父は面白がるように大声で笑っていた。






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