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 がたんごとんと乗合馬車に乗って、カティアはヘルマン領に向かう。

 道が悪いので長時間乗っているとお尻が痛い。縮こまっているので体が強張っている。


 だが、ヘルマン領に入ってから様変わりする。

「あらっ?」

 何度も何度も揺さぶられて、そのたびにお尻が浮いていたのにその振動が弱まったのだ。


 どういう事だろうと首を傾げると。他の乗り合い客も不思議そうに怪訝そうな顔をしているとヘルマン領に何度か来た事ある客が、道がきちんと整備されているからだと教えている。


 道が広く綺麗に整備されていれば、人が多く出入りして、豊かになるとの領主の考えだと説明されてすごい事を考える方だなと感心する。


 その分、敵が入りやすくなって危険ではないかと思ったが、あちらこちらで5人組の兵士が警邏している。


 乗合馬車を降りて、城を目指そうとしたら。


「聖女様……?」

 じっとこちらを見つめて呼び掛けられる。


「いえ、私は聖女じゃ……」

 と否定しようとして、ふと声をかけてきた兵士の顔に既視感を感じてじっと見つめてしまう。


「あ…あの……聖女様……?」

 じろじろと見られて居心地悪そうに顔を赤らめている兵士を見て、


「無理をしないでいいと言ってくれた兵士さん……?」

 聖女候補だった時に多くのけが人を治療したくても力が足りなかった自分を慰めてくれた………。


「あ。ああ。そういえば、そんな風に告げたけど、覚えていてくれたんだ……」

 覚えてもらえないと思っていたと告げるような声に、

「忘れてませんよ。どれだけ忘れっぽいと思われているんですか」

 失礼ですねと笑いながら告げると。


「覚えている方がすごいですよ」

 とどこか困ったように告げられる。


「で、なんで聖女様が……? お付きの方もいないで」

 ときょろきょろと供を探しているが。


「いませんよ。私一人できました」

「はいっ?」

「ヘルマン辺境伯に嫁ぐ事になったので参りました」

「はいっ!?」

 何か変な事を聞かされたと顔を歪めているのでにっこりと微笑んで。


「この度、ヘルマン辺境伯の元に嫁ぎに参りました。よろしくお願いします」

 にっこりと微笑んで頭を下げると。


 がしっ

「失礼っ!!」

 腕を掴まれたと思ったと同時にあっという間に城まで連れて行かれる。


 走るのが大変だと思われて、すぐにどこからか馬を調達して馬の前に乗せられて、ろくに抵抗も出来ずにされるがままになっていたのだが。


「ジジイっ!! どういう事だっ!?」

 お城の中で止められる事もなくスムーズに入れた事に疑問を浮かべつつ、いや、言いたい事も疑問もたくさんあるのだが、正直いっぱいいっぱい過ぎて混乱してしまい、どこから口に出せばいいのか分からなくなっていたのだ。


 城の豪華な造りの一室まですんなり入れてしまい、その部屋にいた男性に向かって怒鳴る兵士さん。


「どうした。坊主!! 嫁さんもしっかり連れてきて」

 にやにやにやと笑っているのは兵士さんにそっくりなご老人。


「よっ……嫁さ……」

 顔を真っ赤にして言葉を詰まらせている兵士さんを見て。


「レイヴン伯爵令嬢。突然の結婚の申し込みを受けてくれて感謝する。儂はヘルマン元辺境伯で、こいつは孫のアルバードだ」

 と指差しているが兵士さんは答えない。


「挨拶せんかっ!!」

 肘打ちされて動きを止めていた兵士さんが慌てて動き出して。

「………アルバードで、ですっ!!」

 と挨拶をする。


「兵士さん……アルバードさん……アルバード様とお呼びしないといけない方だったんですね。気安くお呼びして申し訳ありません!!」

 名前を呼んで無礼な行いだったかと慌てて気づいて頭を下げると。


「あっ、頭を上げてくださいっ!! 聖女様」

「聖女じゃなくて()聖女候補です。ただのカティアです」

 恐れ多いと慌てて訂正すると。


「えっ!?」

「はいっ!?」

 二人してテンパっていると。


「名…名前を呼んでいいのですか……」

 恥ずかしそうに確認されて、こっちも恥ずかしくなってしまう。


「カ…カティア……」

「は……はいっ……」

「お…いえ、私の事もアルバードと……」

 もじもじもじ


「なんじゃ、初々しいな。目に毒じゃな」

 面白いが話が進まんだろうと言われて、二人して我に返る。


「以前この地で治癒をしてくれた聖女様が忘れられないと見合いを断っていたからな聖女様の動向を調べ続けておったんじゃが、聖女は別の者がなったと聞いて慌てて実家であるレイヴン伯爵家に婚姻の話を持っていったんじゃ。他に娘がいると聞いたからきちんと治癒能力のある娘だと伝言しておいてな」

 まあ、吹っ掛けられたが、それでもいい契約じゃった。

「ジジイッ!!」

「おっと、しゃべりすぎたか」

 わざとばらしたのだろうとにやにやと笑っているさまを見て、

「カッ。カティアさんっ!?」

 腕を掴んで、

「もう挨拶はこれくらいで、屋敷を案内しますっ!!」

 ぐいぐい引っ張っていく。


「仲良くやれよ~!!」

 前領主が楽しそうに声を掛けていく。


 掴まれた箇所が熱い。

「あっ、あのっ!?」

 耳が赤い。いや、耳だけではなく、顔全体赤いのが見える。


 それを見ているとこちらも赤くなっていくのを感じて無性に恥ずかしかった。


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