18
短い
「ところで」
王太子がにこやかにアルバードの肩に手を置いて、
「最近。面白い話を聞いたんだけど」
耳元で囁いてくるがそんなことされるのは愛する妻以外されると気持ち悪いだけだと無礼だと言われても仕方ないがそれをいささか乱暴に振り払い。
「面白い話? 何かあったんですか?」
不思議そうに首を傾げる。
「そんな首を傾げる仕草をしても可愛くないからやめろ」
「その言葉そっくりそのままお返しします。耳元で囁くのは妻以外お断りです」
と言葉を返すと、まあそうだなと納得して。
「魔力を回復させる方法が見つかったんだって」
確信持って聞かれて、サクッと本題に入られた。
「………それが」
どうかしましたか。
はいともいいえとも言わずに次を促す。
「いやな。どこぞの聖女が治癒魔法の力が落ちたそうでね。それでは生家の犯した罪を償えないと嘆かれてな。だから、彼女が自分の手元にある寄贈された品を引き換えに魔力が取り戻せるなら喜んで差し出すというからね」
実際に言っていないのだろう。
せいぜい、自分の魔力が弱まっているので罪を償えませんと涙を流して詫びているのを言葉巧みにそんな事を言うように誘導して没収するつもりか。
まあ、どうでもいいか。
親友だという言葉でカティアさんを利用しようとした輩だ。どんどん借金地獄で苦しめばいい。
「カティアさんとお揃いの親友からもらった友情の証という物体は回収しておけよ。カティアさんが呪いの品を異母妹に押し付けたという噂を立てられたら困るからな」
にこりと笑いながら脅しておく。
「まあ、回収するつもりはあるけど、しちゃっていいの。そっちを苦しめるいいアイテムだろう」
そっちにも仕返しし足りないんじゃない。
「ああ。そうだな……じゃあ、似たような形状で親友の証を用意してもらおう。あくまでカティアさんに影響出ないように」
そんな馬鹿な事を言われたらカティアさんは傷付くだろう。親友の裏切りを知るのもつらいだろうし、自分が誰かにそんな苦しみを与えてしまったと嘆く人だ。
そんな事一切させるわけにはいかない。
「王太子を脅すのかよ……」
処刑されるぞ。
苦笑いを浮かべる様に。
「辺境伯であるヘルマン家が無かったらとっくの昔に魔物に襲われて滅びているだろう」
これくらい余裕だよな。
と言葉を返す。
「あ~。ヤダヤダ。偽聖女様のせいで、王家の役割がきちんと果たせなくなっていたからな。こうやって辺境伯に借りを作るし、本物の聖女様はすでにヘルマン家が手放さないだろうし」
「当然だ」
聖女になって、王太子と結婚して幸せになっていたら諦めていたが既に手中に入っている。今更手放す理由などない。
そう告げると王太子は何も言い返せずに、ただ溜息を吐くだけだった。
正直、同情はする。
偽聖女とそのカラクリに気付かなかった歴代の王の血が薄まって、膨大な魔力がどんどん弱まっていく王族。その影響で王族のすべき役割が果たせず、聖女から生まれたはずなのに弱い魔力しか持たない輩が有象無象としている中で魔力を薄める事なく、まさしく王族の本来の魔力を持っているが故になりたくもない王太子にさせられて尻拭いをさせられるのだから。
(しかも権力を欲する馬鹿ばかりいるから命を狙われるのが日常茶飯事だからな)
だが、本物の聖女がカティアと発表する事は当然許さないし、実際それを行うとずっと偽聖女が王妃になっていたという王族の恥部まで公表しないといけなくなるので実行に移せないだろう。
せいぜい協力できるのは権力を欲する馬鹿たちに関しての証拠を集めて大掃除するのを手伝うぐらいだろう。
あとは。
「せいぜい相応しい妃を探せるように祈っておく」
「…………………そうして」
弱弱しい声は期待していないからだろう。実際砂粒から砂金を探すぐらいの難しさだろう。
魔力が多く、王妃として役割を果たせて。後、できればこの苦労性の親友を支え、守ってくれるほどの強い存在感を持っている女性など。
まさか、そんな条件を持って、親友に想いを寄せてくれる奇特な女性が十数年後に見つかるとは思わなかった。
――いや、見つかるというか。自分とカティアとの間に生まれた娘が、仕事疲れでフラフラの姿を見て愛が重いヘルマン家の血の本能で押しかけ妻になるのだと思わなかった。
王家の役割。魔物から守る結界を維持する事




