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「あら、お姉さま」

 いろいろあってやっと解放されたので部屋に戻ろうと思って階段を上がっていると声を掛けられた。


「メリンダさん……?」

 妹と言われても初めて会ったので妹の実感が無いのでさん付けをしてしまった。


「”様”でしょ」

 ふふんっ

 こちらを見下したような視線。


 聖女候補の時に時折、そんな視線を向けてくる御令嬢が居たなと思い出す。


「聖女様と言われて傅かれて、いい気分だったでしょ。お・ね・え・さ・ま」

「…………」

「なんとか言ったらどうなのッ!?」

 ああ、口を開いていいものだったのか。その手の御令嬢はこちらの意見など聞きたくないと口を開く事を許さない方が多かったのでその手の類かと思った。


 とりあえず。

「聖女候補であって、聖女ではありませんでしたよ。聖女はレイチェルが」

「ああ。アーレクイン公爵令嬢さまでしたわね」

 アーレクイン公爵令嬢?

 そう言われたらレイチェルの実家は公爵家だったと思い出す。


 聖女候補になったら俗世を捨てろ。

 身分も生まれも住んでいた場所も神の前では等しく平等なのであるから。


 と言う神の教えがあったのでレイチェルの実家の事をすっかり忘れていた。


 ちなみに、我が家は伯爵家であったりする。

「アーレクイン公爵家は代々聖女を輩出してきたお家。聖女候補と言われてもしょせん聖女になるのは決まっていたのにそんな事を気にせずに聖女候補として教会で過ごしてきたなんておかわいそうに」

「…………」

 教会の歴史を学んだ時にそういえば、聖女候補は何人もいたが、アーレクイン公爵家から聖女が出ている比率が高くて聖女が出やすい家系だとあった。


「聖女になれずに、悪魔と評判の辺境伯の元に輿入れ。なんてかわいそうなお姉さま」

 可愛そうと言いつつも面白がっているのか笑っている。


「ねえ、辺境伯の噂ご存じ?」

「……いえ、隣国に侵略された時に治療に向かっただけです」

 それも昔だから。


「あらあら」

 ふふっ

 口元に手を持っていき、笑いながら。


「逆らう者に容赦なく、捕虜をなぶり殺しにする残虐な辺境伯。侵略者が現れたら血の海しか残らない悪魔のように恐ろしい方だとか。お姉さま口答えした途端あっという間に殺されるかもしれませんね。ああ、なんて恐ろしい」

 ふふっ


 そんな親切に説明されても。つまり、国の防衛を担っているからそれ位した方がいいのではと思っていると。


「あらっ?」

 今気づきましたとばかりにじっと見てくる。


 視線の先には腕。正確には手首。


「俗世を捨てたと言いながら何を持っているのですか?」

 腕を掴まれたと思ったらあっという間に手首にはまっていた腕輪を奪われる。


「返して!!」

 それはレイチェルが親友の証だと言ってくれたものだ。


 慌てて取り戻そうとするが、

「きゃっ!!」

 可愛らしいがしっかり響く声で悲鳴をあげるメリンダに。


「どうしたメリンダっ!!」

「おっ、お父様……お姉さまがお姉さまが……」

 しくしくと泣きながらお父様の元に向かっていく。


「お姉さまが、わたしを妹と認めないと手を挙げて……」

「なんだとッ!?」

 メリンダの言葉を聞いた途端ずかずかとお父様が近づいて。


 ばしっ

 思いっきり頬を叩かれる。


 叩かれた拍子に階段に足を滑らせてしまうのをとっさに手すりを掴んで落下を防ぐ。


「教会で育ったのにとんだ性悪になったモノだな」

「ち、ちが……」

「妹を虐げるなんて」

 反論も許されずに、さっさとメリンダを連れて行ってしまう。


 べぇ

 メリンダは一瞬振りむいたと思ったら舌を出していく。


「…………」

 それをじっと手すりにつかまったまま見詰める。





 その後、そっと階段を上がり、何年ぶりかの自室に戻る。

「………何もない」

 子供のベットや机などいろいろあったのが、何もなく、壁に飾ってあった飾りすら消えている。


 あるのは何年も掃除をしていなかったような埃と飾ってあった跡が辛うじて残っているだけ。


「………神様」

 そっと手を組んで、教会で暮らすようになってからの習慣化した祈りの言葉を口から出す。


「今日も日々の糧をありがとうございます。神様の愛を常に感じて過ごしております」

 嘘だ。


 久しぶりにお父様に会ったと思ったら知らない間に義理の母と異母妹が出来ていた。

 なんで、知らない妹にレイチェルがくれた親友の証を取られないといけないのか。

 なんで、取り戻そうとしたらこちらの言葉を聞いてもらえず叩かれないといけないのか。


 怒りと悲しみがどろどろと胸に渦巻く。


「………申し訳ありません。神様」

 こんな醜い心をもって祈るなど聖女候補失格だ。

 いや、こんな醜い心があったから聖女になれなかったんだ。


 と、そこまで考えて自嘲気味に笑って、溜め息を吐く。


「もう、聖女候補でもないのに……」

 いつまでも聖女候補だったと言うものに縋っているのだろうか。


「駄目ですね……」

 まもなく辺境伯の元に嫁ぐのだ。気持ちを切り替えないと。


 レイチェルのくれた腕輪を取り戻したいが、無理だろう。もしレイチェルに会えたら謝ろう。もっとももう二度と会えない可能性の方が高いが。


 嘆いても仕方ないと大きく伸びをして、力こぶを作るように腕をあげて、

「頑張ります」

 治癒魔法を使える人を求めての輿入れだ。治癒魔法自体弱まってしまったが、治癒魔法が使えるのは事実だ。


 求められるのなら頑張ろうと決心したのだった。


――因みに噂とかはまったく気にしていないので恐れる事などなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 継母や異父妹が嫌がらせしてくれるのはまあわかる。 彼女らはヒロインがいる限りずっと日陰の女だから でも父親!てめーはなんだ 別に何やったって自由で権力を謳歌してる身で、長女に出け嫌が…
[一言] 義理妹、自動ざまぁ装置やん
[一言] 怪しい腕輪の偽親友+極悪義妹に(不)幸あれ
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