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結婚式は盛大だった。
バージンロードは歩いたものの後はずっとお姫様抱っこで式を行って困惑している花嫁に、それが当然であるとばかりに平然としている花婿と関係者。
来賓に至っては、「ああ、ヘルマン家だしね」というムードが流れていて、当たり前ではない結婚式がいかにも当たり前だよという感じで行われた。
そう。花嫁を逃がさないように。奪われないように迅速に横入りが来ないようにいろいろ手を回された結婚式は無事終了して、その翌日。
「まさか、ここまで待たされるとは思わなかったよ」
来賓室で苦笑している青年にアルバードは平然と。
「新婚ですからね。本当は仕事をすべて隠居した父と祖父が行って蜜月を味わっているはずなのですが、なぜか名指しで来客が見えまして」
どういう事でしょうかと相手が自分ではなかったら斬り殺されてもおかしくないなと眼差しに殺気を宿している辺境伯に少し困った顔で笑い掛け、
「急に来て悪かったね。でも、親友の結婚式を祝いたい気持ちがあったから許してほしいかな」
「祝いたいだけならいくらでも歓迎しますが、本当にそれだけですか?」
さっさと用件を言えと新妻を置いてきている状況に苛立っているアルバードに、
「それ以外受け入れないだろう。――まったく、結婚届もこっちが口出す前に賄賂込みの必要書類を迅速に処理するようにお願いして、白クジャクの羽根やらワイバーンの鱗。フェンリルの毛皮などどんだけ大金を積めば手に入る代物なんだよ」
宝飾品でも人気だけど、防具にしたら敵なしの代物なのにさ。
「何を言っているんですか? 妻の実家に感謝の品を送るのは当然でしょう。それに神殿に寄付をするのも普通では」
「妻の実家と寄付の意味が異なる事は突っ込まないよ。面倒だから」
溜息を一つ。
「――で」
いい加減妻の元に戻りたいから本題を言えと催促されて仕方なく口を開く。できればチクチクと嫌味を言いたいがそれをして謀反を起こされたらたまったものではない。
「どちらから言えばいいのか迷うが、アーレクインの聖女は王太子妃になる事を辞退して、一生聖女として神殿に仕える事になった」
正式には辞退するように脅したのだが。
「歴代最強の治癒能力を持つ聖女が何故です?」
分かってて聞いているだろう。まあ、言わないといけないだろう。王太子である自分が直接。
「アーレクイン家が、聖女を多く出していた家にも関わらず、汚職に手を染め、禁止薬物を輸入して、国家転覆を目論んだ。それに責任を感じた聖女レイチェルは辞退」
なんて悲劇。と美談に片付けているが、実際そうではない事を二人とも知っている。
「で、実際の方は?」
「一応労われよ。こっちは婚約解消された王太子様だぞ」
「これは申し訳ありません。クリストファー王太子殿下」
と全くこっちを敬っていない態度に言い返すのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
「………アーレクイン家は魔道具を使い、本来の聖女の能力を奪い偽りの聖女として国を長年騙し続け、国を支配しようとしていた。それは大罪だ」
と誰もいないのを確認しつつすべての説明を行う。
代々聖女を輩出してきた一族。アーレクイン。
だが、それにはカラクリがあった。
聖女の候補になったアーレクインの令嬢は候補たちに友情の証と称して何らかの装飾品を贈る。
常に持っていてねという言葉を添えて。
その装飾品には魔法文字が刻まれていて、魔力を吸収してとある人物に送り込むような仕組みになっていた。
それがアーレクインの令嬢であり、聖女システムのカラクリだった。
そのカラクリが今までばれなかったのはひとえにアーレクイン家がばれる危険性を考慮して、吸収する量を選んでいたのと三回に一回はアーレクイン家以外の聖女を出すように細工したからにすぎない。
それが発見されたのは当然。愛が重い一族が妻になる女性に瑕疵を一つでもつけないため。そのためだけにそんなカラクリを暴いて自分たちにとって都合のいい王族に密告したのだ。
もちろん、それが自分たちの不都合にならないように細工して、一つでも間違えたら王族全体の醜聞として国中に広まるようにとまでやるから性質が悪い。
「そんな仕組みに気付いてなかったから王族の魔力持ちが減っていて困っていたんだよね」
王族には王族の裏の役割があり、それが近年では果たせなくなっていた。
魔力持ちの子供は一部例外はあるが、魔力持ち同士の子供で生まれる確率は高い。ましてや王族の役割を果たすには通常の倍以上の魔力持ちが生まれないといけないのだ。
そして、王太子には王族で一番魔力が強い者がなるように決まっている。そのため、王族の末端ではあるが、魔力の強いクリストファーにその役割が回ってきた。
三代前は大公であったが、娘が嫁いで関係ないと思っていたはずなのに。
「本当に参ったよ」
きちんとした聖女が聖女として表に出ていたら本来の聖女であるカティア・レイヴン伯爵令嬢を王太子妃にして、国を共に支えていたのだろうが、すでに愛が重い一族に嫁いだ。
婚約を打診する前なら何とかなったが、手中に収めた時点で手放さないだろう。国を滅ぼす覚悟で命じなければ。
王族は裏の役割のためにすべてを費やし、ヘルマン家は生涯を掛けられるほどの存在のために生きる。
だからこそ、敵対できない。
どちらも国を守るためにその生涯を選んだのだから。




