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ワイバーンを食用にするか家畜にするか迷っていた。
温泉の水を無事持って帰ったその日の夜。
「なんですかこれっ!!」
食卓に並ぶのは今まで食べた事ないほどおいしいお肉。
こんなものを食べたらもう他の食事には満足できなくなりそうだと思えるほどの美味。
「久しぶりに食べたがうまいな」
前当主様が上品に口に入れているが、その速度は信じらないほど早く、あっという間に消えていく。
「貯蔵庫にも一応入れてあります。披露宴用に使うと料理長が張り切っていたので」
燻製にしておけば持つだろうとも。
「そうか。残しておかないと怒るだろうしな」
はははッと前領主が笑う。
「お前の母は」
「私の母は」
と同時に告げる。
「欲しかったら自分で捕獲してくると言いそうですよね。父上は」
「あやつもヘルマン家の血筋で愛が重いからな。食べたいと一言でも漏らせばあっという間に狩ってくるだろう。ワイバーンを」
と肉の正体を言われて手が止まる。
ワイバーン。
あのアルバード様が斧で仕留めた。
「ワイバーンっておいしいのですね……」
違うそうじゃないと思ったが、そんな言葉しか出てこない。
「ワイバーンを仕留めるのはちょっと大変だからな。市場に出回らないのだ」
ほとんど仕留めた者とその家族のみ口にして終わるからな。
と、本当ならちょっとどころではないはずの存在をそんな言葉で片付けられてどう答えればいいのか困惑してしまう。
「ワイバーンを飼いならせたらいいのじゃが。ワイバーンの味を知ると飼いならすのは無理じゃな」
食らいたいと思うからな。
「いっそ食用に飼育が出来るといいのですが」
「それよりも騎獣だな。ワイバーンに乗れれば移動時間も短縮できるからな」
と話をしているのを聞いていたらいつの間にか食べ終わってしまった。
もっと余韻を味わいたかったのに。
「ワイバーンを一度食べるとその美味さで水のように食べてしまうのは仕方ないな」
「食べた事ある私たちでもそうなるので」
とお二方に慰められる。
「こう考えるとお前たちは運がよかったな」
「?」
「運がいい?」
前当主の言葉に二人して首を傾げると。前当主は楽しげに笑いながら。
「結婚式前に現れて式が延期になるかと思ったが、アルバードが無事に解決させたから言えるが、こんなワイバーンの肉が手に入って披露宴で出すと喜ばれる事間違いないだろう。魔素溜りで新たな名産品が出来そうだしな」
羨ましがるだろうなと前当主が笑う。
「確かに、ですが、このワイバーンの肉欲しさに被害も出ていないのに狩りをしろと命令する輩が出ないといいですが」
下手をするとちょっかい出して逆鱗に触れる可能性がありますからね。
アルバード様の言葉にそうなったら多くの人が傷つくだろうと心配になる。
「父上のように腕に自信があるのなら大丈夫だろうが、一般の騎士では無理でしょうね」
被害が増えるだけですとアルバードが告げるのを聞いて、斧でワイバーンを倒してしまったアルバード様がそこまで告げるお義父さまはどんな方なんだろうかと怖い方だろうかと不安になる。
「結婚式ではおそらくその話題もあるでしょうね。ワイバーンが現れた時点で延期になると思われていたでしょうし」
「いや、ヘルマン家の結婚だ通常通りに行うと準備している者の方が多いだろう。愛が重い一族だからな」
アルバード様の言葉に前当主様がそれはないと即答する。
どれだけ愛が重い一族と思われているのでしょうか……。でも、その重い愛が愛情に飢えていた私には気持ち良い。
神様はやはり見守ってくださって、私の願いを叶えてくださるのですね。
食事が終わったらお礼の祈りをしないといけないと思いつつ、
(レイチェルにお手紙でも書こうかしら)
今私が幸せであると言う事を伝えたいが、きっと忙しくて手紙を読む暇はないだろうなと思って迷う。
それに親友の証としてくれた腕輪を異母妹に持っていかれてしまった。
(そんな私が親友だと言ってもきっと喜んでくれないわね。裏切ってしまったから)
そんな事を思いながら食事をする。
レイチェルは元気だろうか。王太子の婚約者と聖女の二足の草鞋で無理をしていないといいけどと遥か遠方にいる親友を案じていた。
ここでメインじゃない二人の話に入ります。




