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「カティアさん」
アルバード様が呼びに来られた時にはワイバーン討伐から一日過ぎていた。
「疲れたでしょう。もう休んでください」
労わるように告げてくるアルバード様の方が、目の下にクマが出来ていて疲れているように思える。
とんとん
その時私は疲労が極限状態だったのだろう。自分の膝を軽く叩いて、
「アルバード様の方が疲れているみたいです。休んでください」
とアルバード様の身体を掴んで無理やり横に――いわゆる膝枕状態にしていたのだ。
「しっかり眠ってください。何なら子守唄を歌ってあげます」
「…………マジ、尊い」
両手で顔を隠して力尽きたように呟く声にやはり疲れていたのだなと頭を撫でる。
「領主様このまま永眠しちまいそうだな……」
「結婚前にそれをされるといろいろきついよな」
「ガンバレー」
と治療が終わった人たちが声援を送っているが、なぜ声援を送っているのか理解できない。後、そんな事をしないで安静にしてもらいたいのだが。
そんな事を考えながら治療を続行していたのだが、
ふらっ
どうやら限界が来たようで立ち眩みが起こる。
「すみません。休ませてください……」
とアルバード様を膝に乗せたまま横になる。
「無理しないでくださいと言ってもきっと無理するんでしょうね」
困ったように苦笑する声と共にふわっと持ち上げられて、仮眠用のベットまで運ばれる。
そして、仮眠用のベットで二人並んで一日ぐっすり眠っていたのは私がアルバード様の服を掴んでいたからで、起きた時にどういうことなのかと混乱したのはまあ仕方ないでしょう。
私よりもアルバード様が焦っていたから冷静になったのだが。
そんな事でぐっすり休んで疲れが取れてすぐに魔物が現れた原因を探る事になったのですが。
当初は置いていこうとしたのだが、聖女候補の私だからこそ気付く事があるかもしれないと説得して同行させてもらった。
そして、付いてきて正解だった。
アルバード様含む騎士の方々全員魔素の近くに行けずに目くらましの術があるかのように横にそれてしまっているのだ。
「面目ない……」
アルバード様が申し訳なさそうに告げてくるが、仕方ないだろうと歩いているうちに気付く。
魔素が濃すぎて生存本能でさせているのだ。魔素を緩和させる術を掛けたので進めるが、それがないとまず行けないようになっているのだ。
そんなこんなで無事進んでいくと。
「すごい……」
魔素溜りと思われる場所には池が……いえ、湯気が出ていたので温泉というべきものがあったのだ。
「こんなところに温泉があるなんて思いませんでした」
「温泉……?」
アルバード様は知らなかったようです。
「とある国である健康を促進する代物で、温泉がある地域は主に療養地となっています」
と説明しながらそっと温泉に触れる。
「えっ?」
「どうしましたっ⁉」
私が驚いた声を出したので心配そうにアルバード様が慌てて温泉から私を引き離す。
「何かありましたかっ⁉ 体調はっ⁉」
怪我がないかと心配そうに確認されて、
「だ…大丈夫です……」
と、アルバード様の手を離して、再び温泉に近付く。
アルバード様は手を離されている事にショックを受けているが、確認したい事があるのだ。
ちゃぽん
温泉の中に手を入れる。
「やはり……」
信じられない。
慌てて振り向いて。
「アルバード様っ!! この温泉。魔力を回復させる効果があります!!」
昨日の治癒魔法の酷使、それと今の魔素からの保護魔法でかなり魔力が枯渇していたのだが、それが一気に回復したのだ。
「どういう事ですっ⁉」
アルバード様も近づいて恐る恐る手を入れる。
「えっ……?」
アルバード様の目が大きく見開く。
「昨日までの疲れが取れた……」
信じられないと呟く声と同時に部下にも確かめるように命じる。
この魔素溜りに来るまで疲れていた騎士の方々も一気に元気になっていく。
「ポーション並みの……いえ、聖水レベルの効果がありますね」
騎士の一人が呟く。
「もしかしたら、この魔素溜りの温泉を売り出したら金になるのでは……」
実家が商人だと言っていた騎士が呟くのを聞いて、
「いい考えですね」
と同意してしまう。聖女候補だった時にこの温泉があれば治癒をしすぎてフラフラになっていった同じ候補の子たちを回復させられただろうし。現に私の魔力も回復した。
全盛期の頃のように。
「………もしかして」
ワイバーンの被害者を治癒していた時魔力が聖女候補の時ほどではないが、回復していた。それはもしかしたら。
「魔力が豊潤な地域に居れば魔力が回復しやすい……」
それならば魔力が弱まった人たちが療養すれば魔力が戻って魔術師などの負担が減るのでは……。
「これでポーションとか作ったらどうなるんでしょうね」
また別の騎士の言葉に。
「それは試してみてみると面白そうだ。薬草もカティアさんが薬草を栽培しているからそれが育ってから作ってみましょう」
いいですか。
アルバード様が問いかけてくるのでもちろん使ってくださいと告げると。
「ありがとうございます」
と微笑まれてお礼を言われる。
その笑みに。ああ。好きだなと気持ちが溢れてくる。
私のわがままで育てた薬草を使う事は領民のためになると思っての判断。そこで私の薬草だと不満を抱くわけない。役に立てるのならそれがとっても嬉しい。
そして、私が役に立てるのだと居ていいのだと言葉でなく行動で示してくれる姿が素敵だと思える。
アルバード様の事をじっと見てきた。優しいアルバード様。雄々しいアルバード様。でも、どちらもこのヘルマン領の民のためのものだと思うと誇らしくて素敵だと思うのだ。
この領民想いの方と共にこの地に暮らしていけたら素敵だなと思える。
「では、さっそく採取しましょう」
「はいっ!!」
二人で協力して採取しようとしたのを慌てて騎士の方が温泉を入れる容器を準備してくれた。
膝枕のシーンが短い
膝枕「解せぬ」




