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 ヘルマン領。

 魔力が豊潤に含まれている大地故に作物の育ちが早く、豊かな場所。


 ただし、その豊かさゆえに隣国の侵略が多く………。


 ――魔物が発生しやすい。




 奇妙に澱んだ魔力が肌で感じ取れる。

 ピリピリとする感覚がする人もいれば、水圧の強いところにいきなり放り投げられた感覚がすると感じ方は多種多様だ。


 魔力が強い方角に視線を向けると小さな影が空に浮かんでいるのが見えた。

「あれは……」

「ワイバーン。ですね」

 カティアの目には黒い点にしか見えないのにアルバード様はその点の正体が見えているようだ。


「ワイバーン」

 聞いた事あるけど、見るのは初めてだ。


「ワイバーンか。以前から飼いならせたら移動が楽になるのにとジジイがぼやいていたな」

 魔物の育て方が分からないから無理なのだがと呟くと傍に控えていた従者にいくつかの指示を出す。


「カティアさん。今から討伐に向かいます。結婚式までに片づけますから」

 待っててください。そう言おうとしたのだろう。だが、

「私も付いていきます」

 足手まといになるだろうと思うが、あの場所に向かわないといけないという焦燥感が生まれる。


「カティアさんっ!?」

「私は()()()()()()()者です。治癒魔法は弱まったとはいえ、怪我人の応急処置は出来ます」

 そう治癒魔法が使えなくなったのではなく、弱まったのだ。


「逃げ遅れた人の治療を行える者が現場に必要です」

 だから付いていきますと宣言すると。


「…………ああ」

 どこか眩しいものを見るように、目を細めて。


「そうですね。――ついてきてください」

 お願いしますと言われて嬉しかった。ああ、私はアルバード様にもらってばかりで役に立てないことが不安だったのだと気づく。


 そして、聖女候補だった時の習慣が抜けないのだなと苦笑する。


 偽善だと言われるだろう。レイチェルがどんなに助けてもまた戦場に向かって怪我をするのなら治療しても意味がないと嘆いていたけど。


 それでも、しないよりもした方がいいだろう。

 

 アルバード様とともに馬で向かうと空には大きな翼を開いてこちらに向かって威嚇のように火を吐いている竜。


「火まで吐くとは厄介だな」

 いつもはしっかり敬語で話すアルバード様が舌打ちとともにそんな言葉を吐き出して。


「テメーがのさばったせいで結婚式が行えなくなったらどうしてくれるんだ!!」

 邪魔すんじゃねえっ!!

 と叫んだと同時に、どこからか取り出した斧を力いっぱい投げて、ワイバーンの翼にぶっ刺さる。


「…………はいっ?」

 イマ、ナニガオコリマシタカ?


 1、アルバード様が舌打ち&敬語捨て

 2、どこからか斧

 3、斧を勢い良く投げました

 4、斧がワイバーンにぶっ刺さる


「斧って、ぶっ刺さるモノなんですね……」

 どういう事かと困惑していると、

「すみません。怖かったですよねっ!?」

 自分から敬語が抜けていた事実に気づいて慌てて謝ってくるアルバード様。


「い、いえ……」

「怯えさせるつもりはなかったんですが……」

 としょぼんとしている様を見て、ああ、噂の鬼と恐れられている所以はここにもあるんだなと思ってしまう。


「敬語のないアルバード様も好きですよ」

 にっこりと告げて。


 すぐにとんでもない発言をした事に気づいて顔を赤らめる。

「すっ…好き……好き……カティアさんが好きっと……」

 ぶつぶつぶつ

 顔を赤らめて同じ言葉を繰り返している。


 そこを攻撃されて痛みで暴れるワイバーンが襲ってくる。


「いいところを邪魔するなっ!!」

 が、ワイバーンの顔をグーパンチで殴り、気絶させる。


「ふんっ!!」

 誰もがあっけにとられた。だが、すぐに沸き上がる歓声。


「さすが領主様だ」

「見事ですっ!!」

 興奮している領民の中にはワイバーンにやられて火傷を負っている人たちもいる。


 何で気づかなったんだろう恥ずかしい。

 元聖女候補が情けないと反省をして、怪我人の元に向かう。


「えっ……奥方様……?」

 全盛期よりも弱ってしまったが、治癒能力は健在だ。


 呼吸を整えて、自分の体内の魔力を感じる。そこから怪我人の魔力を探り、不調を訴えている個所の魔力の流れを補給するように魔力を与える。


 補給された魔力は怪我をした場所に送り届けられて、少しずつ怪我を回復させる。


「あくまで応急処置だから、きちんとお医者様に見てもらってください」

 と微笑んで告げると泥まみれであったその人がじっとこちらを見て返事をしない。


「あ…あの……?」

 何かあったかと心配になると。


「奥方。すみません!! こちらに重傷の者がっ!!」

 兵士の一人がこちらに向かってきて報告してくれる。


「分かりました」

 と慌ててそちらに向かう。


「お前な。奥方が綺麗だと言っても見とれていたら領主様に殺されるぞ」

「あっ、ああ……助かった」

 後ろでそんな会話が聞こえるが、綺麗とか見とれているとかお世辞にも言いすぎだ。第一、アルバード様が人を殺すなどと戦場で敵じゃない限りありえないだろう。


 そんな事を思いつつ重傷の方々を治療して回る。


「あの時の聖女様……」

 と治療した方の中にはそう呟いて拝んでくる方もいる。


「元聖女候補であって、聖女ではありませんよ」

 訂正しつつ、次々と治療して、違和感を感じる。


(あらっ?)

 もうかなりの人たちを治療したのだが、枯渇状態になってもおかしくないのに未だ魔力は豊潤だ。

どういう事だろうと思ってしまうが、まずは治療優先。魔力が豊潤ならそれに越した事ないかとアルバード様が声を掛けるまで治療し続けたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 健気な主人公頑張って! ドキドキより愛の重さが読んでて楽しいです(笑) [気になる点] 定番のいい人=悪人バターンかな? 後は取られたあれが、あれなんだよね~
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