表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

第6話 デルタウィング

 直後に、ビアンカの身体全体が唐突に(ほの)かな光に包まれる・・・

 意識がトランス状態に入ると、時間の流れが極端に遅くなる。身体の反応速度も呼応して落ちる。

 けれども、ビアンカの身体能力は、元もと人間のそれではない。時間が間延びすれば、スローモーションで圧倒的に精密な動作が可能になる。


「信号弾、発射」

 もはや思考でも言葉でもなかった。身体が自動操縦で動き、意識はその動きを観察しているかのようだ。

 戦闘機の後部から紫色の狼煙(のろし)が吹き出して、空を鮮やかに彩った。

 それを合図に、妨害波圏の縁で四方に展開した四十機の友軍機のうち半数が、空対地ミサイルをレーザー砲に向けて発射した。

 レーザー砲周辺の高速高射砲群は、小型機が妨害電磁波圏内に入った瞬間、戦闘機編隊に向けていた照準を変更していた。

 しかし、砲撃を始める前に、画像分析で捉えたミサイル群に即座に反応した。同時に周辺部の高射砲もミサイルに照準を変えて、一斉に砲火を浴びせた。

 

 一斉射撃を受けたミサイルは、一秒後にはことごとく空中で破壊された。後には、基地中央のレーザー砲台を囲むように、黒煙だけが点々と虚しく漂っている。

 だが、その一秒後には、戦闘機部隊の残る半数が、レーザー砲目がけてミサイルを発射した。

 戦闘機部隊は、その後も二十発ずつ合計八十発の空対地ミサイルを、二秒おきに発射した。

 ミサイル攻撃が繰り返されたの時間は、ほんの十秒足らずだったが、地下要塞を守る高射砲群は、急降下する小型機についに照準を合わせることはなかった・・・


「あと七秒」

 ビアンカは離脱する時間も含め、残された時間を確認した。

 操縦桿とフットレバーを精密に操作する自分の動きは、スローモーションで認識している。

 思考にならない認識が心に去来する。

「わたしは百分の一秒で対応できる。操作系の反応速度は千分の一秒。十分間に合う」


 超音速で滑るように位置を変えた小型機は、無謀にもレーザー射出口の真上から垂直突入して行く。

 地下要塞の守備隊の目には、一か八かの最短時間攻撃を仕掛けたように映っているはずだ。

 ビアンカはまじろぎもせず、イーグルアイカメラの拡大映像を見つめていた。意識が「無」の状態に入りこみ、身体は自動的に動いて機体を操縦している。


 ピンポイント照射がことごとく失敗に終わり、妨害電磁波圏に侵入された時点で、地下要塞の人工知能は、ピンポイントより格段に命中確率が高い図形照射に切り替えた。

 「線」でなくレーザーの「面」が、光速で小型機を迎え撃った。


 最初に繰り出されたのは長方形だった。

 「\」型に照射口が開いてレーザーが閃いたが、まるで予知したかのように、照射寸前に小型機は右に四十五度機体回転させ、同時にわずかに外側にスライドした。

 飛来するレーザー面から一メートルほど上をすれ違い、すぐさま内側にスライドバックして急降下を続ける。


 描画照射ではレーザー砲の過熱で冷却が遅れる。

 二秒後に繰り出されたレーザーは「Z」を描いた。

 しかし、照射の一瞬前、スワン機は左向きにクルっと九十度回転するなり、左外側にへスライドした。

 右翼先端から一瞬火花が散ったが、またも鮮やかに攻撃をすり抜けた。

 やや右内側にスライドバックして、再び機体の先端中央に照射口を捉えた。


 そして、ついに「死の三角形」と呼ばれる「△」の照射口から、レーザー照射が十分の一秒も続いた。面を超え立方体のレーザーがMX25を襲った。


 だが、照射の瞬間、戦闘機の翼はすでに大部分が機体に格納されていた

 戦闘機の横幅は一気に半分に狭まり、死の三角形を内側をわずか数十センチの差で奇跡のようにすり抜けた。

 二機の空対地ミサイルは、レーザーに触れて紙きれのように切り裂かれ宙を舞った。

 しかし、両翼のミサイルは精巧な模造品だったのである。ハリボテでは爆発するはずもなく、機体はまったくダメージを受けなかった。


 自ら張り巡らした妨害電磁波のせいで可視画像しか使用できないため、地下要塞を制御する人工知能は、無謀な垂直降下をしかけたのがMX25-F戦闘機ではなく、装甲を強化して機体に改造を加えたMX25-R偵察機と見抜けなかった。

 他ならぬブラック・スワンがテスト飛行を担当、その提言で設計を変更した偵察機は、三角翼を収納できる。(*)


 地下要塞のAIが偵察機と察知していれば、守備隊は空対地ミサイルに備えて温存していた究極の「X」照射を使って確実に撃墜できたはずだ。

 あるいは、戦闘機部隊の陽動作戦に惑わされることなく、中央部の高射砲群から集中砲火を浴びせていただろう。高出力レーザーが高射砲の集中砲火で拡散する現象も利用すれば、「X」照射を繰り出すまでもなく易々と偵察機を撃墜できたのである。


 しかし、プライムの足元にも及ばない地下基地の人工知能は、突然の無謀な有人機襲来の意図を、最後まで見抜けなかったのである。

 地下要塞の守備部隊も、度重なる無人機の攻撃をことごとくはね返してきた実績に慢心して、人工知能にすべてを任せてしまった・・・



*「デザート・イーグル ~砂漠の鷲~」第8話「欠陥」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ