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第5話 「ブラック・イーグル作戦」

 欧米連合軍の歴史に残る伝説となった「ブラック・イーグル作戦」。

 (かなめ)となったスワン中尉の突入劇は、友軍戦闘機編隊が展開した直後に始まり、わずか一分足らずで終わった。


 その日、作戦を監視した偵察衛星の高解像カメラは、妨害波の影響を受けない可視光線を鮮明に捉えていた。

 砂漠地帯は雲ひとつなく風向きもおあつらえ向きで、PM2.5も衛星の視界にはかかっていない。

 妨害電磁波圏外からの迎撃を避けて、高度一万メートルを保って基地に接近した有人戦闘機部隊は、四方に分かれて次々に翼を(ひるがえ)しながら、斜めに降下して行った。周辺の制空権は連合軍がとっくに掌握している。迎え撃つ敵戦闘機の姿は皆無だった。


 基地上空に接近すると同時に、地上の高射砲から激しい対空砲火が糸を引くように襲いかかった。

 戦闘機部隊は一気に編隊を崩した。妨害電磁波圏の内側で散り散りに展開する。その後を追って、束になっていた対空砲火も見る見るうちに分散して広がった。

 砲火は前後左右に目まぐるしく動き、おびただしい数の眩しい光の軌跡が、灼熱の太陽を覆い隠さんばかりに飛び交う。

 上空からの衛星画像では、まるで次々に炸裂する花火の中を、数十匹の小さな虫が上下左右にクルクルと回転しながら、目まぐるしく位置を変え舞い飛んでいるように見える。


 戦闘機部隊が降下を開始する直前、小型機がはるか上空を急接近する姿を、偵察衛星が捉えていた。高度二万メートルという、一昔前なら考えられない高度を、超音速飛行する三角翼の有人機だった。

 北米連邦に配属されたばかりの最新鋭有人ステルス機MX25である。

 小型機は基地上空に達すると、いったん減速した後、急降下に転じた。通信妨害圏の中心を目指して、左右に不規則反転を繰り返しながら急激に高度を下げた。

 速度はマッハ3に達していた。


 コックピットのビアンカ・スワン中尉は、冷ややかに澄んだハシバミ色の目を鋭く細めて、イーグルアイカメラの映像を見つめていたが、チラッと視線を逸らせて、AIの自動操縦装置のスイッチを見やった。


 そっと胸でつぶやく。

「あれを切らなきゃ、生きて帰れない。他に手はないわ!」


 高度一万メートルまで降下したところで、衛星画像に赤いフィルターがかかった。可視光線画像では見えないレーザー照射が、地上から一直線に戦闘機に向かって(ひらめ)くのが映った。

 無論、スワン中尉の目にはレーザーなど見えはしない。命中しない限り、飛来したことさえ分からないのだ。照準が合ったが最後、光速で飛来するレーザーを逃れる物体はこの世に存在しない。

 しかも、この地下要塞の高出力レーザー砲は、ミサイルや爆撃機の耐レーザー装甲までも破壊する威力を持つ。対空攻撃では無敵の存在だった。


 機体からわずか数メートル離れた空間を眩しい白光が切り裂く様子を、衛星のカメラは鮮明に捉えた。

 一瞬間をおいて二発目、さらに三発、四発、五発目が(まばゆ)く閃いた。

 しかし、超音速で左右に不規則な弧を描きながら小刻みに位置を変える敵機に、照準がわずかにブレて、標的はレーザーをことごとくすり抜けた。

 日本の人工知能「プライム」がシミュレートした自動操縦プログラムが、完璧に機能していた。


 不気味ね。攻撃されたのもわからない!高出力レーザー砲の照射を浴びたら最後、機体に大穴が開く。自分の身体にも。それなのに、命中しない限り何の音も振動も感じないなんて・・・

 ビアンカは、頭に叩き込んだプライムのシュミレーション時系列を思い起こして、攻撃の第一波をかわしたと悟り、胸をなでおろした。


 その後も、眩しい白光を連続的に(きら)めかせて、九回の照射が続く様子が衛星画像に映った。

 しかし、奇跡のように数メートルから十数メートルの差でむなしく空を切り、一人乗り戦闘機は高度約五千メートルで通信妨害圏に突入した。


 その瞬間、ビアンカは左手を伸ばし、自動操縦のスイッチを躊躇いもなく切った。


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