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第23話 一石四鳥

(地下要塞のレーザー砲回避プログラムには、致命的な欠陥があったわ)

 ビアンカはテレパシーを使った。

 この場所は、夜間の赤外線監視カメラのない一角で、盗聴ドローンなどのデバイスもチェックしたが、静まり返った夜の公園は話し声が遠くまで通る。それ相応の用心が必要だった。


(通信妨害圏内に入ったが最後、高度を下げると電磁波はどんどん強まる。機体の位置センサーは、降下するにつれて機能が急激に落ちた。プライムの回避プログラムは、妨害波圏内に入る前に機体位置の変動をシミュレートしていたけれど、リアルタイムの位置情報がストップしたら、回避プログラムの調整もできなくなるの)

 メンターの手を握って精神感応で話し続けた。接触型テレパシーなら、仮にテレパスが近くに潜んでいても感知できないので安心だった。


(いくらプライムでも、降下中の風圧や気圧や気温の変化までシミュレートするのはムリだわ。機体の位置の微妙なズレまでは予測できない。レーザー照射も同じよ。予測できない誤差が必ず生じる。ほんの十万分の一秒のズレでも、光速で飛ぶレーザーは三キロ以上先まで届いてしまう。だから、自動操縦で突入するのはギャンブルと言うより、完全な自殺行為だったの)


(そこで、AIをシャットダウンして、手動に切り替えたのね?そして、イーグルアイカメラで真正面にレーザー照射口を捉えるため、真上に機体を合わせたのね?)

 少女の言葉に、ビアンカはうなずいて続けた。

(オーブを起動して、トランス状態に入ったの。量子場に意識を移して、イーグルアイで拡大した照射口にフォーカスした。意識を絞ると時間軸が間延びするから、スローモーションで動きを追えた) (*)


(照射口の真上に機体を保てば、相手の照準もより正確になるから、逆にレーザーを避けやすくなるのね、誤差が少なくなって?)

 ビアンカは少女の言葉に再度うなずいた。

 この少女はパイロットの経験こそないが、ひと通り体系的な知識を備え、何より直感に優れているため、話がスムースに流れる。

 人類の第六感とは比較にならない。正確無比かつ極めて安定した直感の持ち主なのである。


(出撃前にプライムのシミュレーションで、照射口の動きと照射のタイミング、描画照射の形状と順番を確認したの。照射口はカメラのシャッターのように動く。開き始めたら、レーザーの照準は変更できない。開き出してから開き終わるまでの間に、照射された立方体をかわせる位置に移動すれば良いとわかった。

(オーブを纏えば、わたしの脳と身体は百分の一秒で反応できるし、偵察機の操縦系統は千分の一秒で反応するから、余裕で間に合ったわ。時間軸が伸びてスローモーションになるから、精密に操縦できた。離脱の方が難しかったわ。機体は耐えられるとプライムは計算していたけれど、風圧や気圧までは精密に計算できないから・・・)


(トランス意識と新人類の反射神経を使った手動操作は、ネバダのミッションと同じね。あの時は、ミサイルの手動迎撃を隠すために、あなたは通信妨害装置を早めに起動した。迎撃後にAIを壊して、操作記録を抹消して故障に見せかけたわね) (**)

 少女が問いかけた。

(そうなの。あのミサイル迎撃の後、能力が上がってトランス状態に深く入れたから、今回はさらに時間の進み方が遅くなったわ)

 ビアンカの判断は的確だった、と少女は感心して聞いていた。

 ビアンカは二度の作戦を自力で切り抜けた。第三世代には情緒が安定しないという欠点がある一方で、命懸けの体験を積むことによって能力も高まる。


 その時、公園を抜ける石畳を若いカップルが通りかかったのを見て、ビアンカはテレパシーを切り、そそくさと少女の手を離した。

 英語で会話する分には、レッスンを受けていると映るだろうが、女子高校生と女性教師が手を握り合って黙ってお互いを見つめているのは・・・と、あらぬ疑いを抱くかどどうかはともかく、ここはブラウドの支配下にある。

 尾行をまかれたラガマフィンたちは、今頃血眼で探しているはずだ。注意を惹く行動は避けるに越したことはなかった。


 ビアンカは声を潜めた。

「問題はミッション以前なの。なぜ、あのミッションが認められたのかわからない。専門家ならわたしが気づいた誤差を見落とすはずがないもの。大がかりな軍事行動だから、いくら短期間で決まったからって、専門家チームが検証しないはずはないわ」

「その通りよ。あなたははめられたの」

 少女がビアンカを見つめて優しく言った。

「やっぱりそうなのね!」

 ビアンカはささやき返した。

 この子、なぜこんなに冷静なの?とむしろそのことにビックリしてしまう。


「それだけじゃないわ。カミの父親の拘束も、何者かが味方を欺いて仕組んだの。つまり・・・」

 少女は淡々と、しかしきっぱり言い切った。

「貴美の父親を敵国に売って、長年の懸案だった地下要塞を破壊して、記憶探査装置を手に入れ、その上、新人類のあなたをあぶりだそうとした。一石四鳥を狙ったとてつもない切れ者がいるわ。あなたが手動で攻撃するとプライムが予測していたとしたら、その人物はプライムとも通じているかもしれない。どちらにしても、あのミッションを検証させずにゴーサインを出せる人物だわ。アメリカ政府上層部の一員ね」


 薄々感じていたはいたものの、メンターに疑惑の核心をズバリ突かれたビアンカは、顔から血の気が引くのを感じた。

 合衆国政府の強大な軍事力と、諜報網を動かす正体不明の敵を相手取って、どう戦えって言うの?


 先ほどのカップルが遠ざかったのを確かめて、ビアンカは少女の手を握りテレパシーに戻した。

(それじゃ、わたしの正体を政府や軍や諜報部に知られたのね!?)


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