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第2話 夢か幻か? 

 不思議な夢を見る。

 いつも冗談に日本語で「姫」と呼んでいるビアンカが、中世の王国の王女になって姿を現わした。

 王女は白馬にまたがり、弓兵部隊を率いて高台で息をひそめていた。

 そこへ、味方の騎馬部隊が一目散に谷あいを抜け、こちらに疾走して来るのが眼下に見えた。

 最後尾につけた大柄な騎士が、兜の隙間から青い目を爛々と輝かせて、逞しい黒馬を疾駆させ味方を叱咤激励している。

 後方から、数で勝る隣国の騎馬部隊が、砂ぼこりを巻き上げながら追いすがるのが目に入った。


「兄上よ!プロスペロ、伏せるよう合図を!もっと引きつける!」


 ビアンカは素早く馬から降り立って木の陰に白馬を隠すと、振り返ってアキラに命じた。

 アキラは谷の反対側の高台で待ち伏せる弓兵たちに、弓を振って合図を送った。弓兵たちは一斉に腹ばいになって、攻撃の時を待った。


 十数秒後、激しく土埃を巻き上げながら、蹄の音を谷に響かせながら味方の騎馬部隊が谷間を一目散に駆け抜ける。


「今よ!牽制攻撃を!」

 

 ビアンカの声にアキラは素早く立ち上がり、前方上空に向かって矢を放った。周囲の弓兵たちも一斉にアキラに習う。

 立て続けに十数本を射ちつくすと、素早く新しい矢筒に取り換えた。


 敵の騎馬部隊は待ち伏せに気づき、慌てて速度を落とした。放物線を描いて上空から降り注いで来る矢に、皆が気を取られている。


「攻撃開始!」

 ビアンカが叫んだ。


 アキラは谷の反対側に待機する弓兵に向かって弓を振り上げ合図を送った。弓兵たちが一斉に立ち上がりざま、騎馬部隊目がけて立て続けに矢を放つ。

 アキラたちも狙いを定めて攻撃を始めた。


 峡谷の半ばに達していた敵の騎馬部隊は、引き返そうとして背後の味方と交錯した。

 鎧兜を身に着けているため矢の被害はさほどでもないが、上方と左右から同時に飛んで来る矢に怯え、馬たちがパニックを起こしたのである。にわかには馬たちの動きを制御できずに、隊列が乱れて大混乱に陥った。


 それを待っていたように、いったん谷を抜けたオパル公国の騎士団は、一気に反転して疾風のように攻撃に転じた。

 先陣を切るのは黒馬に跨ったあの大柄な戦士だ。見る見るうちに味方を引き離して、猛然と疾駆する。

 大剣を振りかざして、一瞬の躊躇もなく、敵軍の真っただ中へ単身切りこんだ。


 繰り出された槍を大剣で薙ぎ払い、黒馬が敵の馬に体当たりして横につけると、大剣の一撃で騎士は馬上から転がり落ちた。

 凄まじい打撃に兜が裂けて首が半分ちぎれ、埃まみれの地面が噴き出た血で見る間に赤く染まってゆく。


「サウロンだッ!ヤツを仕留めろッ!」

 怒号が湧き上がって、四方から敵の騎士が迫った。


 サウロンの動きは、しかし、野生の虎のように敏捷で獰猛だった。振り向きざま、後方から体当たりしてきた騎士が振るった剣を上体をかがめて避けると、大剣で横に薙ぎ払って馬上から叩き落した。

 馬で容赦なく騎士を踏みにじって方向転換するなり、前方から突き出された槍を巧みにかわして、小脇に挟みこんだ。敵の頭を剣で一閃して兜ごと叩き割る。

 無残な(むくろ)となって転がり落ちた騎士の馬が後ろ脚で立ち上がっていななくのを尻目に、黒馬は素早く向きを変え、サウロンは易々と包囲網を抜け出した。


 素早く軍馬を反転するや、対峙する騎士団に向き直り、大剣を軽々と振りかざし、凄まじい雄たけびを発した。 

「次に死ぬのはどやつだッ!」

 地鳴りのような咆哮に、敵騎士団はたじろいで後ずさりした。

 兜の狭間からのぞく爛々と青い眼光に射られて身が(すく)んだのである。

 重武装の騎士三人をあっさり屠り去るとは、聞きしに勝る狂戦士だッ!


「国王に続け!」

 敵がひるんだところへ、側近のトロセロ将軍が大音声を発して、後続の味方を率いて突入した。両軍は激しくぶつかり合い、怒声と剣戟の音が谷間にこだました。


「射ち方止め!敵の援軍が追いつく前に、奴らを国境の外に追い返すッ!行くわよ!」

 ビアンカは白馬に跨るなり、先頭を切って高台の上を国境へ向けて走り出した。


「ニムエ様に続け!」

 ダニエル・プロスペロは、弓兵に向かって叫んだ。谷の反対側の弓兵たちにも弓を振って指示を送った。

 弓兵部隊は背後の森に潜ませていた馬に跨り、一斉に王女の後を追った・・・


 

 アキラはハッと目を覚ました。

 摩訶不思議なほど鮮明な夢だった。顔形ばかりか人名まではっきり覚えている。

 オパルのニムエ王女は、なぜビアンカにそっくりなのか?

 奇妙な偶然にぼんやりとした頭を捻った。けれども、前例のない困難なミッションの後、ビアンカと思いがけず一夜を伴にした挙句、打ち砕かれた自らの想いを持て余してアキラは疲れ切っていた。

 もう何も考える気力もない。

 ただ、ビアンカの充実した裸身の重みと温もりを感じながら、この瞬間が永遠に続いて欲しいと願う。

 ビアンカはアキラの肩に頭を載せて、しどけなく眠っていた。涙の跡が残る顔を乱れた髪が半ば覆っている。

 時おり何やら寝言をつぶやいては、首に回した手でギュッとアキラにしがみつく。

 うとうとしていたアキラは、ふと耳に入った言葉にビクッと目を見開いた。


「プロスペロ・・・」


 確かにそう聞こえた!まさか、同じ夢を見ているのか!?

 驚いてビアンカを見やったアキラは、信じ難い光景を目にしたのである。


 ビアンカの全身はほの白い光にすっぽり包まれ、暗がりの中で淡く輝いている。

 その光はアキラの身体にも温かく感じられ、得も言われぬやすらぎを覚える。心のわだかまりが、スーッと静まるようだった。

 この光は夢でも目の迷いでもない!


 アキラは呆然と目を見張った。

 ビアンカ・スワンは不世出の天才パイロットというだけでなく、想像を絶した謎を秘めていると気づいた瞬間だった。

 その時、昨日の電撃作戦を思い返したアキラは、ふと思ったのである。


 不可能なはずのミッションが成功したのは、運や偶然ではなかったとしたら?

 ビアンカだから成功したのでは?


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