第15話 接触事故
ビアンカが去った後、しばらく間を置いて、アキラも部屋から出て食堂へ向かった。
そこへ、昨日ナビゲーターを務めたメイスが、後から追いついた。
「よう、グース!昨夜はどうした?途中で消えやがって、もしかしてコレか?」
アキラの背中をポンと叩いて、V字を作った二本指をヒョイヒョイ折り曲げる「ブーティ・コール」サインを見せながら意味ありげにウィンクした。
アキラはバツの悪い冗談は聞き流して、固く握手をかわして言った。
「メイス、昨日は助かった!高射砲を浴びて冷や汗かいたが、おかげで無事帰還できた」
「お前のアクロバット飛行も最高だったぞ!後部座席は久々で、吐きそうだったけどな」
メイスは豪快にガハハッと笑って、アキラの肩をどやしつけた。
トップガン卒業生の中でも、とりわけ図太い神経の持ち主である。何があろうと一晩寝ると、翌朝にはもうケロリとしている。極めて得な性格である。
「で、昨日の夜は誰としけこんだんだ?スワンも早々に消えたからな。お前と一緒じゃないかって、意見が分かれたんだ。みんなで賭けてんだゾ!お前らがデキてなかったら、オレの五十ドルはパーだ。頼むぞ~、いったいどっちだ?」
ビアンカは男をいなすのが上手く艦内の人気者だが、実は身持ちが固い。これまでビアンカと一夜を過ごした乗組員や上官は一人もいない。
スワン中尉はバージンだ、という説が男たちの間でネタになっているぐらいだ。
アキラは言葉に詰まった。
不可解な謎がなかったとしても、昨夜の逢瀬を仲間に話す気などこれっぽちもなく、ビアンカをネタにした賭け話に付き合う気にはなれない。
と、そこへ折よくチームリーダーを務めたクーガーが、仲間を引き連れて通りかかった。
「お~、グースチームがお揃いで!調子はどうだ?・・・こらッ、メイス、俺に触るんじゃないッ!二日酔いで頭が割れそうなんだ。歩くだけで脳天逆落としを食らうんだからな」
クーガーが冗談を飛ばすと、一同は大笑いした。賑やかに握手をかわして、昨日のミッションの話で盛り上がる。
と、その時だった。空母の甲板から鈍く重い金属音が響いた。軋るような音に一同は思わず顔をしかめた。
「なんだ、今の音は!?」
パイロットたちは廊下の窓からてんでに外を眺めたが、あいにく甲板の下からでは様子がまったく見通せない。
警報が鳴らないから緊急事態ではないが、一同は様子を見ようと通用口を昇って甲板に駆けつけた。
甲板には人だかりができていた。
被弾した二人乗り戦闘機F95を「フィックス・イット」に移動する作業中に、戦闘機の主翼がビジネス・ジェット機の垂直尾翼に接触して、ジェット機のフラップが損傷していた。
「あ~あ、これじゃ飛べっこない。このジェットも修理船行きだな~」
クーガーがささやくと、パイロットたちは一様にその通り、とうなずいた。
小型ジェット機はかさばる。戦闘機の倍はスペースが必要だ。これだけ混み合っていては、接触事故が起きても何の不思議もないと言うものだ。
事故に遭った小型ジェットは、CIAの中東担当官トルーマンの搭乗機だった。