第14話 きのうの夜は
一方、アキラの部屋を出たビアンカは、すれ違う空母のクルーや士官たちの握手攻めに遭って心底閉口していた。
抱きついて泣き出す女性クルーや士官はまだしも、なかには身体を撫で回してくる男もいる。
だが、いつものように軽くあしらう気力が萎えていた。
アキラのおかげで、折れかけていた心は持ち直したけれど、大量殺戮兵器を投下した罪悪感は消えることはない・・・ミッションに志願したんだから、命令に従っただけ、と言って正当化することもできない!
英雄扱いで祝福する仲間を方法の体でやり過ごし、ようやく自室に戻ったビアンカは、ベッドにへたりこむように横向きに崩れた。
両手で頭を抱えて、身体を丸めてうずくまってしまう。
懸命に涙を堪えた。
非業の死を遂げた地下要塞の民間人にも、それぞれ家族や友人や同僚たちがいる。その人たちにも、生涯消えることないひどい苦しみを与えてしまった・・・
非戦闘員を巻き添えにするとわかっていながら、志願して非人道的兵器を投下した。他のパイロットなら友軍もろとも撃墜されていたはず・・・それに新人類の秘密も守った。
頭の中で思考の堂々巡りが止まらなかった。
でも、バンカーバスターでなくともレーザー砲の破壊だけなら達成できた・・・そう思うとやり切れない・・・
時間がなかったとは言っても、軍上層部の冷酷非情な決断に怒りと無力感を覚えていた。
そのうえ、アキラと一晩を過ごした後、自分の判断が正しいかどうか分からなくなり、ビアンカはひどく混乱してもいた。
「あの夢でアキラの人生は変わってしまう!もし、新人類の秘密に気づいたら、巻き添えになって強大な敵に狙われるかもしれない。それが怖くて、昨夜の記憶を消そうとアキラの首に抱きついたのに・・・キスに夢中になって、我を忘れてしまうなんて、わたし、いったいどうしちゃったの?」
考える間でもないわ。答えはわかっている・・・
「アキラはわたしのソウルメイトで、何世も繰り返し結ばれた相手だから・・・」
昨夜、思いがけずビアンカの意識に蘇った二人の過去生の数々は、温かい思い出に満ち溢れていた。アキラの心から、昨夜の出来事ばかりでなく幸せな過去生の記憶まで消してしまうのが忍びなかったのである。
「アキラが思い出したのは千年前の過去生だった。オパル時代のダニエルだわ。あの時代のわたしは、サマエルしか眼中になかった・・・でも、アキラにとっても大切な思い出まで、勝手に消し去ってしまっていいの?」
新人類の存在に気づいても、アキラは決して秘密を漏らしたりしない、とビアンカは確信していた。
「でも、このまま放置したら未来にどんな影響が出るかわからない。そう、新人類の存在を知るあの貿易商のように。不測の事態が起きるリスクは摘み取っておくべきなのでは?」
身近な存在が関わると冷静な判断はできないものだ。迷った挙句、ビアンカは記憶を消し去るのは先延ばしにしたのである。
「それより、差し迫った問題があるわ!」
アキラの記憶を消すべきかどうか頭を悩ませている時、「ブラック・イーグル作戦」を巡る重大なそして恐ろしい疑惑が、ビアンカの胸に芽生えたのだった。
「自分はまんまと罠にはめられたのではないだろうか?」
もし、貴美の父親の拘束が、不測の事態ではなかったとしたら?