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第11話 立ち話

 ジャーディアン海軍中将がブラックイーグル作戦の遂行許可を、政府・軍・諜報部の高官から取りつける数時間前のことである。


 スワン中尉は人気のない休憩室で、ミッチェル中佐とコーヒーを飲みながら立ち話をしていた。自動販売ロボットが管理するこじんまりした休憩室「コージーコーナー」は、艦内に十数か所設けられている。

 ひと昔前と比べるとコンパクトになったとは言え、二千人以上の乗組員が暮らすこの空母は、さしずめ小さな街といった趣きがある。


 欧米連合軍の有人機部隊が次々に到着した後、空母はインド洋からアラビア湾へ移動を開始した。

 司令室には中央統括軍をはじめ、明らかに政府関係者とわかる要人が慌ただしく出入りしていた。

 しかし、突然の作戦行動の詳細は、乗組員にはまだ知らされておらず、不審に思ったビアンカは、司令部の前で待ち伏せて、ミッチェル中佐から話を聞き出そうと決めたのだった。


 無類のセクハラオヤジをコージーコーナーに誘い出すぐらい、ビアンカには朝飯前の簡単なミッションだ。少しおだてて持ち上げてやると、自信過剰で虚栄心の塊のような中佐は、司令部での会議内容を自慢たらしくベラベラと話し始めた。


 作戦の概要を聞いたビアンカは愕然として思った。アキラとまったく同じ疑念を抱いたのである。

「計画には重大な見落としがある。無茶だわ!」

 ところが、その直後に中佐がふともらした言葉に、さらに頭をガツンと殴られたような激しいショックを受ける。

「よほど重要な諜報員なんだろうな、こんな大がかりな作戦をバタバタと決めるぐらいだから。ドレフュスとか言ったな。CIAのドジめ!面倒な問題を引き起こしやがって・・・」


 ビアンカはハシバミ色をした切れ長の目を見張って、思わず中佐の話を遮った。

「失礼、中佐。今、何とおっしゃいましたッ?」

「うん?何のことだ?」

「貿易商の名前です。今、ドレフュスと?」

「ああ、そうだ。確かパトリックドレフュスだ。何だ、中尉、君の知り合いか?」

「えっ、いいえ・・・珍しい名前なのでちょっと気になって」

 言葉とは裏腹に、ビアンカは内心の動揺を必死で抑えていた。

「フランス系アメリカ人だからな。表向きは夫婦で貿易会社を経営しているらしい。まったく、とんでもない厄介ごとを引き起こしてくれたもんだ!」

 人の心の機微には鈍感な利己主義者らしく、中佐はビアンカの表情が引き攣ってもまったく気に留めなかった。


 次の瞬間、人と距離を置いて慎重に振舞う習性をかなぐり捨て、ビアンカは口走った。

「中佐、お願いがありますッ!わたしを今回のミッションに推薦していただけませんか?」

 藪から棒の願い出に、ミッチェル中佐は魂消てぎょろっとどんぐり(まなこ)を剥いた。

 とんでもない無茶な話だった。

「なんだと!?正気か、中尉ッ?いくら自動操縦でも、あのレーザー砲に単独攻撃をかけるんだぞ!人工知能のヤツがちょっとでも計算ミスをしていたら、偵察機ごと木っ端みじんだ。ダメだ!絶対に認められん!」


 中佐が声を張り上げたため、廊下を通り過ぎた士官が、チラッとコージーコーナーの二人に目をくれた。


「ちょっとお耳を・・・」

 ビアンカは声をひそめて、中佐のそばに身を寄せた。

「何だ、耳寄りな話なんだろうな?フフッ!」

 つまらないジョークにひとり悦にいった中佐は、ビアンカが耳元に顔を寄せると、ここぞとばかりに張りつめた形の良いヒップに手を回してさりげなく撫で回す。

 しかし、ビアンカは中佐が触るに任せて、何ごとかささやきかけながら、人目につかないよう片手を伸ばした。

 そっと中佐の後頭部に当てがう。その手はほんのりと淡い光に包まれていた・・・


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