第7話 気配
俺達は来た道を戻り、入ってきた門を出た。
だいたい今は午後五時ぐらいだろう。
街の人によると、門は太陽がある内は開いて、そうではない時は閉まるらしい。
なので今門を通る人は、街に帰ってくる人がほとんどだった。
「今日は宿では寝れなさそうだね。」
「くっ……」
アリスは悔しがっているが、あなたはどこでも熟睡できるからいいでしょう。
「今日の所は我慢ね。」
「そうだな。ちゃちゃっと魔物を倒して、お金を手に入れよう。」
ザックの言う通り、ちゃちゃっとやっつけて、報酬もらって、部屋でゆっくりしたい。
修学旅行でどんなホテルに泊まるか気になって、ワクワクする感じだ。
楽しみだ。
「あなたの剣も早く買わないとね。」
「そうだね。」
一応剣や銃を現出させることは可能だが、できるだけ能力は隠し通したい。
現に、三人も能力を隠していると思われる。
それから、いろいろな魔物を見て、戦って思ったのだが、前世の時代の銃は魔物に対して効果が薄いように思われる。
魔物の体積は大きく、当たる確率は高いが、致命傷とはなりにくい。
しかも、玉を飛ばす分、自分が保有する金属資源を失ってしまい、省エネ戦闘ができない。
威力は、帰ってから魔法を学ぶ予定なので、魔法でどうにかできるか分からないが、改良してみたいと思っている。
「あなたは剣を持つまでは私達からあまり離れないで。」
「ありがとう。以外と優しいんだね。」
「ち、違うわよ。
ただ近くにいたら守りやすくて効率的なだけよ。」
少し頬が赤い。
話が変わるが、ギルドでの出来事のお礼をちゃんと言えていなかった。
「あ、クレア、ギルドの男の事ありがとね。ザックも。」
「――仕事をしただけよ。」
またしても少し頬が赤い。お?お?
「君を守ると約束したからね。」
「ありがとう。心強いよ。」
俺は親指をたてた。
「フッ。私は何もできなかったから膝枕でもしてやろう。それがいいだろアレン?」
「いや、良くないから!」
なんで膝枕なんだ、訳が分からない。
ほんとにこいつ17歳か?
普通の男子は勘違いするぞ?
俺は無性で、性的欲求がわかないから大丈夫だが、一般男性に対しては危ない。
ハートを撃ち抜かれてしまい、下僕を了解してしまうかもしれない。
そしてそんな奴らが増えてしまえば、アリスの君主制の国家が出来てしまう……
ドM王国……
さすがにそれは無いか。
まぁ、他の人に見られながら膝枕とか、恥ずかしすぎるわ。
そんなこんなで、魔物が出現する場所まで来た。
ドスン、ドスン、ドスン
「よし。みんな、やろう。」
そう俺が声をかけて三人はコクっと頷き、魔物に斬りかかった。
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それから日が落ちるまで魔物を倒し続けた。
俺は彼らに走ってついて行って見ているだけだった。素手でも大丈夫と言ったが、別にそこまで体を張る必要はないと言われた。
確かにその通りだ。
ザックが枯葉を集めて火をおこした。暗闇が少し明るくなった。
「フッ。結構倒したな。」
魔物の小山ができていた。
「これならまぁまぁな金額になるんじゃない?」
「そうだね。」
「いやいや、それはいいけど、どうやって持って帰るんだよ……」
「…………」
みんなが黙った。
「考えてないんかい。」
こいつら戦いとなると他のこと考えられなくなるのか?
「ふむ。どうしようか。」
「フッ。そんなこと知らん。」
「…………」
三人は何もアイデアが浮かばなさそうだ。
「はー…… 分かったよ俺が何とかするよ。」
「できるの?」
クレアが俺に希望的観測すらないように思っている声で言った。
「あぁ、たぶんできるよ。」
俺は魔物の小山の前にたった。
イリス、この魔物を『固有空間』にしまう。手伝ってくれ。
《了解しました。空間への入口の現出補助を行います。対象物体の座標を確認しました。》
俺は右手を挙げた。
すると、魔物の小山がすっぽり入るほどの、円形状の空間の入口が小山近くの上空に現れた。
その入口は少し光を帯びている。
「――え。」
「なんと……」
「フッ。」
クレアは若干引いて、ザックは目をキラキラと輝かして、アリスは嬉しそうな顔でこちらを見ている。
それから俺は右手を下にさげた。
すると、円形状の入口も同じ速度で降下し、地面についた。
そしてその光を帯びた入口は次第に薄れていき、消えた。
魔物の姿も消え、地面だけが見える。
「す、凄いな!」
ザックが両手で肩を持って揺らしてくる。
「あ、ありがとう。」
「どんな技を使ったのだ!? 能力か? それとも魔法か?」
「能力だよ。」
「はははは。面白い能力だ!」
ザックは興奮しまくりだ。
「フッ。さすがだ。やるな。」
アリスが、腕を組んで嬉しそうにしている。
「あ、あんたやるわね。ほんの少しだけ見直したわ。」
クレアには少し引かれたようだ。
まぁそれはいい。
だが、能力の一つを明かしてしまった。
だが、魔物をここに放置して帰るとなると、なんのためにこの魔物は死んだのかということになる。
俺は死んだ魔物に意味を持たせたかっただけだ。
別に後悔はしていない。
「これなら魔物を討伐し過ぎても安心だ。」
「いやダメだ! 討伐し過ぎるな!」
前言撤回、後悔した。
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そんなこんなで俺達は、俺の『固有空間』に収納せず残しておいたクロコダイルをザックが調理し、食べていた。
もちろん俺は味覚も嗅覚も有してないので、味がない。
それなのになぜ食事をしているのか。
それはただ、ずっとご飯を食べていないと、怪しまれてしまうからだ。
お面の下から口に入れる。
もぐもぐもぐ
「美味しいね。(棒)」
俺は今とても悲しい。食事がこんなにつらいのか……うぅ……
「上手い。」
アリスはフォークでさして食べている。
とても嬉しそうな顔だ。
こいつが美味しそうに食べるせいで、余計に味を味わってみたい欲求が増幅する。
「やっぱり身がさっぱりしていて美味しいわ。やっぱりあなたの料理は美味しいわね。」
「君の口にあって良かったよ。」
クレアも絶賛か。
ふむ。
さっぱりとした味か。
《低脂肪、低カロリー、低コレステロール、低炭水化物で高たんぱく、高鉄分、DHAやEPAも含み、食物繊維も豊富な食材です。》
めちゃめちゃ健康に良い食材ではないか。
それはクレアが好むのは当たり前だ。
「クロコダイルって健康にいいっぽいよ。」
クレアに教えてあげた。
「そうなの? あなたそんなことも分かるのね。」
「ま、まぁね。」
まぁイリスのおかげだけどね。
「じゃ、これはどう?」
俺にキノコを渡してきた。
赤とか青とか黄色のような蛍光色ではなく茶色で、普通に食べられそうなキノコだ。
だが、どうせこいつが渡してきたものだ。
毒があるに違いない。
パクッ
《少量の毒を検知。状態異常耐性の影響で毒の無効化に成功しました。》
うん。
やはりそうか。
「毒あるよ。」
そう言って俺はかじりかけの毒キノコを渡した。
「ありがとう。あなた毒大丈夫なのね。」
毒あったのに反応薄いな。
こいつ毒あるの知ってたな。
この女やはり怖い。
人間だったら確実に嘔吐と腹痛と下痢だな。
この体はやはり便利だ。
「大丈夫っぽい。みんなはどうなの?」
「私も大丈夫だわ。」
「フッ。間違えて毒キノコを食べた時に耐性は獲得している。大丈夫だ。」
「私も毒の耐性は獲得している。」
みんな大丈夫なんかいっ……
アリスはどうせお腹でもすいて、そこら辺のキノコを食べたのだろう。
アリスらしい。
その他二人はそんなことで毒耐性を獲得して無さそうだが。
「二人はどうやって毒耐性を獲得したんだ?」
「私は私のお婆さんから教えて貰ったわ。ふふふ。懐かしいわね。」
「私は師匠に教えてもらったな。とても偉大な方だったよ。」
過去を懐かしむような顔だ。良い思い出だったのだろう。顔が微笑んでいる。
そのザックの師匠もアリスのお婆さんも、今この世界にはいないだろう。
彼らは百年も眠っていたのだ。
そう考えると胸が締め付けられるようで、悲しい。
彼らの過去の事は気になるが、今は亡き人について聞くのはちょっと気が引けた。
俺自身もあまりそう言う話はしたくない。
親との楽しいことはたくさんあったが、やはり悲しい事は存在感が大きい。
まぁ前世のことだけどね。
「みんな大丈夫なら良かった。
守護者を毒キノコで失うなんて恥はしたくないからね。」
「フッ。馬鹿にするな。」
「それは私の台詞だわ。
毒キノコで王を失う恥なんてしたくないわよ。」
「安心しなさい。私は強い。」
みんな強気だな。
それでこそこいつらだ。
俺今恵まれてるな。
こいつらが守護者で良かった。
そんな感じで俺達は食事の会話を楽しんでいた。
だが、そんな時に俺達の周囲に人の気配を感じた。
能力『空間知覚』の影響だ。
常時気配の感知はできるようにしている。
具体的なものの形、人数、座標、広範囲の地形までは感知できるようにはしていない。
それは常にフル稼働は出来ないからだ。
最初、守護者の封印を解いて、クレアと戦闘になった時のように、能力の使いすぎは疲れてしまうのだ。
三人はまだ周りの気配に気がついてはいない。
《周囲200メートルに人の気配を複数感知しました。》
そうだな。
この時間帯に森に人がいるのはおかしい。
わざわざ夜中に狩りをする必要はないだろう。
夜に活動する魔物は少ないらしい。
一般の冒険者にとってリスクが高すぎる。
そんな怪しい人達は、途中で近付くのをやめた。
こちらの様子を伺っているのだろうか。
気になるから能力をフル稼働してみよう。
《能力『空間知覚』の制限を解除します。》
俺の視野が大きく広がった。
360度ビューだ。
頭がこんがらがりそう。
何度やっても慣れない。
どこが前だ……
ということで視覚を通常の人の範囲に直し、不審な人達の位置座標を確認する。
どれどれ……
世界が無色の3D構造だけの世界になった。
物質の裏も透けて見える。
俺は気配のした方向へ視界を進めた。
すると、俺中心の半径150メートルの四箇所に人の姿があった。
まず、今俺が座って向いている前方に、剣を腰に身につけた人とリュックを背負った人がいる。
剣を持っている人は、筋肉ムキムキの体格なので、男と思われる。
もう片方は細身だ。
マッチョが荷物持てよ!
女性が荷物持ちはさすがにないから男か。
もし女性に荷物持ちをさせていたらぶっ飛ばす。
次に、俺の右手方向に、左手に盾を持ち、右手に剣をもつ者と腰に剣を身につけている者がいる。
どちらも筋肉ムキムキで、こちらも二人とも男だろう。
俺の左手側も、右手側と同じだ。
そして後ろには、細身の体格でローブを着ていると思われる者が自分と同じ長さ程の杖を持って立っている。
ムキムキでは無さそうだが男だろう。
なぜ男か?
胸がないからだ。
なるほどなるほど。
男が七名だ。
うむ……
俺達を恨むような人と言えば、ギルドで会った男達だ。
あいつらはムキムキのマッチョだったな。ほぼあいつらで確定だ。
本当にめんどくさい奴らだ。
よく夜の森に来たな。その根性だけは認めてやろう。
っとちょっと上から目線にそう思った。
だが、彼らが近付いてくる気配は無い。
まさか俺達が寝ている間に襲おうとでも考えているのだろうか。最低な奴らだ。
本当の初心者ならば寝ている間に、気付かれず襲うことはできるかもしれないが……
お可哀想に……
こちらには戦闘狂しかいないのだ。
まぁ相手の手のひらにのっかってやろう。
走っているだけだと戦闘の感覚が鈍りそうなのでちょうどいい。
俺が相手をしよう。
あとこいつらに守らてばかりじゃ申し訳ないしな。
守護者達が敵の存在を知ってしまうと、俺の出番はなくなってしまうだろう。
それはダメだ。
こいつらが寝静まってから行動しよう。
ということで寝る時間を待つことにした。