第6話 ギルド
今は午後四時ぐらいだろう。
俺達は、ケイオス街に無事着いた。
ケイオス街の周囲は円形状の厚い防御壁で囲われていた。
高さは8メートル程だろうか。
立派な壁だ。
魔物や魔人の国に近いからそれなりに防衛対策には力をいれているのだろう。
冒険者だろうか、人々が門から出入りをしている。その際の検問などは無さそうだ。
ここは特に国という訳ではなくてまた、誰かが統治している訳でもないからだろう。
俺達はすんなり門をくぐることができ、街に入ることができた。
そこに広がる光景はおれの期待を裏切っていなかった。
いや、期待以上だろう。
そこは屋台やら露店やら人々の活気やらで賑わっていた。
「ヘイいらっしゃい! 今三本で銅貨三枚! しかも一本サービスするよ!」
「はーい! クロコダイルの肉はどうですか!」
「はい、買った買った! さっき仕入れたビックブルのステーキだぞ! 早いもん勝ちだ!」
「え、ビックブル!?」
「ビックブルだって!?」
「俺買う!」
「俺も俺も!」
「ちょ、まて、俺もひとつ! おっさん!」
「私達も買います!」
「めっちゃ人いるじゃん!」
俺はちょっと興奮していた。
活気があっていい雰囲気の街だ。
屋台も肉ばっかりで最高だ!
って思っても俺は食事を楽しめないのだが……
「そうだとも。ここは冒険者の街だ。皆元気な人達ばかりだよ。」
「おい! そんなことよりビックブルだ!」
アリスがその屋台の方向を指さしてアピールしている。
「はい買った買った! あと少ししかないぞ!」
店のおっさんが叫んでいる。
「なっ…… あと少ししかないだと! 早く行くぞ!」
俺は彼女に背中を持たれ、引きずられるように連れていかれた。
「肉を四つくれ。」
「はいよ、じゃ、銀貨二枚だ。」
ザックがカバンをとってくるついでにお金も持ってきていた。
気が利くやつだ。
俺はザックからお金を受け取った時に、だいたいのお金の価値を教えてもらった。
この世界には、貨幣が存在し、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨と発行枚数は少なくあまり世に出回っていない白金貨がある。
話を聞くにお金の価値を前世のお金と比較すると、銅貨は百円、大銅貨は千円、銀貨は一万、金貨は十万、白金貨は百万ほどの価値だ。
つまり銀貨二枚というのは前世で言う二万円でとてもとても高い。
俺はもらったお金の中から銀色の貨幣を二枚とって渡した。
「はい、二枚だね。あ……そこの兄ちゃん、この貨幣古くて使えないわ。」
「え。」
アリスに渡そうとしていた肉は店の奥へ引っ込んでいった。
アリスは肉を受け取ろうと、手を伸ばした体制で固まっている。
そして俺の顔を見て、目が合った。
俺は首を振った。
「くっ。こんなことが……」
彼女が気の毒に見えた。
早急に今の貨幣を手に入れなければ。
さもないと、アリスが爆発しそうな予感がした。
俺と落ち込んでいるアリスはクレア達の所へ戻った。
「あんた達、肉は?」
「この貨幣古くて使えないってさ。」
「あら、そうなの?」
「ふむ。それは困ったな。」
「このままじゃ、宿もとれない。どうにかしてお金を手に入れないと……」
俺は考えた。
屋台、人、冒険者、魔物……
そう冒険者だ!
「なぁ、冒険者になるのはどうだ?――」
みんなが俺の方を向いた。
「一時的にだけど……」
「ふむ。それだ。」
「フッ。やるな。」
「あんたも少しはやるわね。」
珍しく褒められた。
「ならば、ギルドへ行こう。」
「ギルド?」
小説や漫画で見かけるようなやつか。
だが、ギルドという組合は前世の西洋に実在してたらしい。
「ギルドで冒険者カードを発行してもらわなければならない。」
「そんなのいるのか?」
「あぁ。その証明書がなければ冒険者は魔物を売ることも、依頼を受けることもできない。
まぁ、この街はギルドの権力が大きいのだよ。」
「なんとなく分かった。じゃ、ギルドに行こう。」
そうして俺達はギルドを目指して歩いた。
行く途中に屋台やお店があり、接客の人に呼び止められたが、自分が持っている古い貨幣を見せると、興味を失ったように他の人達の方へ移って行った。
アリスはギルドに着くまで終始、自分の気持ちを咬み殺すかのような顔で歩いていた。
そんなこんなでギルドについた。
ギルドはこの街の中心に位置していた。
周囲の家は二階建ての石と木造の建築が多いのだが、ここギルドは三階建ての立派な建物だ。
俺は扉を開けた。
中は広く、人がたくさんいた。
酒をのんでくつろいでいるおっさんがいたり、パーティの人達で作戦会議をしている人がいたり、仲間を募集している人がいたりした。
そしていかにも悪いことをしそうで筋肉ムキムキの数人のパーティがこちらを見てにやけている。
あー、これは後でめんどくさいことになるやつだ。
相手にすると余計にめんどくさくなりそうなので無視をしよう。
俺達は彼らの前を通る。
彼らは俺達を目でおっている。
だが、無事に彼らの前を通り過ぎることができた。
「ふー。」
ほっとした。
「なんだ?」
アリスが尋ねる。
「なんでもないよ。」
ギルドのカウンターにきた。
お姉さんが接客対応をしている。
「はい。なんのご要件でしょうか?」
「冒険者カードを発行したいのだが。」
ザックが代表として対応している。
「冒険者カードですね。新規の方ですか?」
「そうだ。」
「分かりました。後ろの方と合わせて四名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ。頼む。」
「分かりました。ではこの紙に自分の個人情報を書いて提出してください。」
俺は紙を渡された。
「えーつと。名前、性別、年齢、職業、パーティ名か。」
カウンターの隣の台に鉛筆が置いてある。
名前はそのまま書いたらやばいから、仮の名前を書こう。
どんな名前にしよう……
んー何も思いつかない。
このまま考え込んでたら偽名を使っていると思われそうだ。
まぁこのままアレンでいいか。
俺は名前記入欄にアレンと書き込んだ。
性別か…… 確かに俺の性別はなんなんだろう。
金属に性別なんかあるのか?
《ありません。無性です。》
ですよねー。
なんか分かってました。
じゃここは前世は男だったということで、男にしておこう。
男と書いてある方に丸をした。
次は年齢だ。
うむ。
たぶん数百歳ぐらいな気がする。
でもそんなことは書けないな。
いやでも、お隣の守護者達も百年ぐらい封印されてたから、こいつらも百歳以上か。
俺らジジババパーティだな。
俺は前世に死んだ時の歳、17歳と書き込んだ。
そして次は職業だ。
たぶん自分の戦闘タイプを書けばいいのだろう。
いろいろ能力があって、遠距離も近距離も一応対応できるけれど、まだまだ中途半端だ。
能力は最近手に入れたものばかりで、まだまだ使いこなす練習をする必要がある。
俺が今一番経験値が多いものは、前世で父から習っていた格闘技術だ。
だから、格闘家にした。
俺は職業記入欄に格闘家と書いた。
最後にパーティ名だ。
俺達は百歳以上のじじいとばばあの最年長パーティ。
つまり高齢者。
高齢者は、つまり経験者。
つまり長い人生経験をつんだ人。
俺は景色を見ていただけで、彼らも眠っていただけだが…… 一般的には、高齢者は人生経験が豊富だ。
つまり長い道を歩んできた。
よし、決めた。
「パーティ名はロードにしよう。」
「ロードか。どうゆう意味だね?」
じじいとばばあの集まりという意味と言ったら、隣の女性陣が暴れ出すだろう。
「仲間と共に歩むって意味かな。」
「よくそんなくさいことを普通に言えるわね。恥ずかしくないの?」
「フッ。貴様も可愛い所があるのだな。」
うっ…… 確かに。
クレアの言うとうりだ。
ただ高齢者パーティを表したかっただけなのに。
こんなところにも黒歴史は隠れ潜んでいるのか。
「別にいいだろっ。何か不満でもあるのか? 不満がある場合、代案を出してもらうぞ。」
「いい名ではないか。」
「別に異論はない。」
「私も異論はないわ。あなたの言う通り、仲間と共に歩むという意味でロードと言うパーティ名にしましょ。」
「くっ……」
という訳で、俺達のパーティ名はロードと決まった。
俺はパーティ名記入欄にロードと書いた。
俺は彼らがどんな名前にしたのか、年齢は何歳なのか気になった。
どれどれ……
ザックは名前をザック・リーチ、そのままザック・リチャードからとってきたのだろう。
年齢は48歳。見た目通り、おっさんの年齢だった。
もちろん性別は男。
職業は剣士。
え、剣士?
「なんで剣士なんだ? 魔法使えるから魔術師とかじゃダメなのか?」
「確かに私は正確に書くと魔術師だ。しかし、自分で言うのもなんだが、魔術師は珍しい職業なのだよ。だから、少し目立ってしまうと思ってね。」
なるほど。
じゃこのおっさんは凄いやつだ。
魔法は誰でも使えるというものでは無さそうだ。
……俺大丈夫かな?
アリスは名前をアリス。
俺と同じそのままだな。
こいつはフルネームを書くかもしれないと心配していたが安心した。
年齢はなんと17歳。
俺が死んだ時と同い年だ。
こいつが学校にいたら、学校一の美少女とうたわれていたかもしれない。
性格は知らないが。
そして職業は剣士。
剣士の前に獣をつけた方がいいのではないか。
クレアは名前をステラとしていた。
どこからとってきたのだろうか。
よく分からない。
年齢は18歳。
こいつも高校生だったのか。
いや、大学生の可能性もあるか。
まぁ、今ここには学校で一二位を争う美女が二人もいる。
なんと豪華なことだ…… 性格は知らないが。
そして職業は剣士だ。
彼らの情報はそんな感じだった。
剣士が三名の格闘家が一人。
はたから見たら、なんてバランスの悪いパーティなんだ……
実際は剣士二人、格闘家一人、魔術師一人だ。
やはり防御役の子がいれば、もっと安定するだろう。
俺達はカウンターのお姉さんに書いた紙を渡した。
「はい。ありがとうございます。では冒険者カードを発行いたしますので、少々お待ちください。」
俺はさっき気になった、クレアの名前を聞いてみた。
「なんでステラって名前なんだ?」
「な、なんでもいいでしょ! 適当よ、適当。」
ふむ。怪しい。俺は彼女をじーっと見つめた。
「何? 殺るわよ。」
あ、すみません。
調子にのりました。
俺は彼女から顔をそらした。
「お待たせいたしました。こちらが冒険者カードです。自分のカードをとってください。」
「ありがとうございます。」
俺はカードを受け取った。
「カードは無くさないように肌身離さず持っていてくださいね。」
「はい。」
俺は無くさないように、マントの中にカードを持った手を入れ、ばれないように、能力『固有空間』でカードを手の中に吸収した。
「では、ギルドと冒険者について説明します。」
説明があるらしい。
「私たちは魔物の脅威度を、高い方から、A、B、C、D、Eと区別しています。……」
それから脅威度の具体的な魔物の例を説明してくれた。
Eレベルにはスライムや、ザックが好きなクイッククラブなどがいる。
特に害はなく、一般市民でも対処ができるレベルだ。
Dレベルにはゴブリン、ガイコツ、クロコダイルなどがいる。
このレベルになると、一般市民での対処は難しく、冒険者のような専門職がとり扱うレベルになる。
Cレベルにはジャイアントアントなどがいる。
経験をつんだ者が倒せるレベルとなる。
Bレベルにはデススパイダーやビックブルなどがいる。
複数の経験をつんだ人での対処が必要になってくる。
Aレベルにはキメラなどがいる。
出現頻度は低く、職業のトップクラスの人でないと、太刀打ち出来なくなる。
また、多数の経験をつんだ人での対処が必要となる。
「続いて、冒険者の階級制度についてお話します。
冒険者には、強者の方から、S、A、B、C、Dとしています。あなた方の様な新規の方々は、Dランクとされます。ランクは掲示板に貼ってある依頼を受けたり、緊急のギルドからの依頼を受けたり、強い魔物を討伐したりすると、それに応じてランクが上がることがあります。」
それから冒険者のランクの話しが続いた。
Dランクは初心者のクラス。
冒険者なりたてほやほやの人が大きな割合をしめている。
担当魔物脅威度レベルはD、E。
Cランクは中級者のクラス。
Dランクで経験をつんだ者達。一般的に冒険者として自立できるクラス。
特に優れた人も優れない人もいない。
担当魔物脅威度レベルはC以下、主にC、D。
Bランクは上級者のクラス。
Cクラスで経験をつんだ者達。
一般的に一人前と言われるクラス。
安定した生活がおくれる。
担当魔物脅威度レベルはB以下、主にB、C。
また、国から魔人との応戦依頼がくることがある。
Aランクは達人クラス。
Bランクの強者の中でも頭一つ抜け出した者達。
魔物との1VS1の局面において、基本負けることは無い。
担当魔物脅威度レベルはA以下、主にA、B。
また、国から軍人としてスカウトがくる。
Sランクは人知を超えた存在。
主に能力保持者。
努力と才能が必要となるクラス。
魔物の群勢との応戦が可能。
担当魔物脅威度レベルはA以下、主にA。
また、国から軍人としてスカウトがくる。
なるほどなるほど。冒険者が無理な依頼を受けないように細かく区分されているようだ。
「それから依頼を達成した場合、ここギルドで確認を致し、報酬を差し上げます。その後、左にある部屋を抜けると隣の魔物解体用の建物に繋がっていますので、そちらに魔物を預けてください。依頼でない魔物を討伐した場合も、ここギルドに来て頂き、魔物の報酬を差し上げます。
その後、同じように隣の建物にお預けください。」
なるほど。
これで魔物を捕まえればお金をゲットできる。
「分かりました。」
「ふむ。ありがとう。」
「説明は以上です。何か疑問点などはありますか?」
「今はないです。できたらまた聞きに来ます。」
「分かりました。では良い冒険がありますように。」
お姉さんはニコッとして言った。
「ありがとう。」
俺もニコッとしたかったがお面つけてるし、そもそも顔がないので出来ませんでした。
なので低く礼をした。
「じゃ、行きましょ。」
クレアがそう言い、カウンターを後にした。
すると、
「そこのお嬢ちゃん達、俺らと組まない?」
先程、俺達が入ってくるのを見て、ニヤニヤしていた内の一人だ。
他の者達は先程いた場所からニヤニヤしながらこちらを見ている。
くそ、最悪な事態だ。
テンプレ中のテンプレだ。
これはどうあがいてもめんどくさい方向にしか進まない。
イリスどうすればいい?
《冒険者を辞めれば良いと思います。》
なるほど。
ってそれはダメだ。
俺たちにとって、手っ取り早くお金を稼ぐには魔物を捕まえて売るのが一番だ。
そんなことを考えていたが、彼女達は話しかけてきた男を無視して、男の左右を通り過ぎていった。
男は彼女らの対応に戸惑い、少しの間硬直していた。
その間に、俺とザックも男の横を通り過ぎようとしていた。
その男は、我に返り無視された怒りで震えていた。
「おい。――」
男は低い声で言った。
「話を聞いてんのか!」
そうして、近くにいた俺のマントを引っ張ろうとした。
なんで俺なんだ…… 不運だ。
すると、
「そいつに触れるな。」
クレアが低い声で言った。
剣を引き抜き、剣の先を男の顔に向けている。
「!? チッ。舐めたことを。」
男も腰の剣を引き抜こうとし、彼女の言うことを聞かず、俺をそのままつかもうとした。
「彼女が触れるなといっておるだろう。」
男を挟んで隣にいたザックが、俺を掴もうとしていた男の左手を掴み、足を引っ掛け、男をひっくり返し、地面に勢いよく叩きつけた。
「うっ……」
男は腹から落ち、ザックに左手を持たれ、背中を踏まれ、押さえられている。
「少々手荒な真似だが、君にはこれぐらいがちょうどいい。」
かっ、かっこいい……
うん、これは俺の正直な感想だ。
俺はその光景を横で見ていた。
周りの人は唖然としている。
「す、凄いぞあの人。新人狩りを簡単に倒したぞ。」
「あぁ。凄いなあの人。」
「パーティの女の子も可愛いな。」
「確かに。」
ひそひそ声が聞こえてくる。
内の女性陣は美人だが、下手したら下僕にされるぞと教えてあげたい。
というかこの男は新人狩りだったのか。
だから、俺達がちゃんと冒険者になってから来やがったのか。
しょうもない奴らだ。
「では行こうアレン。」
「う、うん。」
男の仲間の前を通る時、凄い見られていたが、ニヤケてはいなく殺気立っていた。
何か襲われるかと思っていたが、見ているだけだった。
そうして俺達は倒れた男を放置してギルドを後にした。
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男は怒りで今にも爆発しそうであった。
美人の隣にいたおっさんに押さえつけられ、左手が痛む。
「覚えてろよ。あいつら……」
そう言って男の口元がニヤけた。
1話分の字数迷い中